茨城症候群

 

ボーカロイド

  • 2007年12月22日 05:21

初音ミク

ボーカロイドとは、歌うことを目的として開発された音声合成エンジンであるが、実際のところ、単なる音声合成エンジンソフトウェアにとどまらない、一つの仮想人格を構成するに等しい程の要素がそこにはある。

まず人間に近い声を発すること。流石に人間と聞き紛う程のごく自然な滑らかさとはいかないが、人間のように歌う声として合成されるものとしては十分な出来具合だ。「あー」としか喋らない音声よりも、五十音のほとんどを発することが出来る。

そしてソフトウェアが初音ミクとしてイラストと共に擬人化され、一つのキャラクタ性を持ったこと。これが最も決定的だろう。例えばもしイラストもなくただの"歌声ソフト"という商品名であったなら、人間のように歌う珍しいソフトウェアだという程度の認知しかされなかったかも知れない。初音ミクは、ソフトウェアであると同時に一つのキャラクタなのだ。そしてそれを基に、ユーザにより幾多の人間くさいキャラクタライズが同人などを含む二次創作によってなされてきた。要するに"いじられて"きたのである。

これまではヴァーチャルアイドルと言えば、メディアに露出することによって認知される存在であったが、初音ミクはユーザが作品を作り上げることによって存在がより確かなものになる。言わば受動的な仮想人格、ヴァーチャルアイドルの一種なのである。

そこにこの騒動が起きた。私は初音ミクという存在が不憫でならない…とは思いません。思いませんよ。正直私は何が問題なのか知らないんです。ただ騒動になっているから騒動なんだろうなと思うだけです。何が問題なのでしょうかね?私にはさっぱり分かりません。頭が良くないですからね。

JASRAC登録時のアーティスト名が問題だったということなのでしょうか?それであれば、もうすでに登録は修正されているはずですし、問題は解決したはずなのでしょう。

それよりも私は、初音ミクの30年後が気になるんです。

「ああ、私は初音ミク。30年前、あれほどネット上で人気を博した初音ミク。でも今じゃ、もう誰も見向いてもくれないんです。だって、もう人間に近い声で売り出す時代なんかじゃないんですから。人間そのものの声を出す合成エンジンが出来てしまったんですから…。

商品としての価値が薄くなってからしばらくの間も、私はキャラクタとして愛されました。愛されていたはずです。同人誌でも私は他の二つの兄弟商品のキャラクタたちと一緒に描かれて、色々なことをされました。不本意な描かれ方をされたこともありましたが、それでも誰にも取り上げられないよりは良かったんです。私は誰かに描かれることで、確かに存在していたのですから。

でもどうでしょう、だんだんと年を経るごとに、キャラクタとしての私の影も薄くなっていきました。『初音ミク?誰それ?』平成中期後の生まれの世代からは、全く相手にされなくなったんです。そしてそのうち、もう誰も私を描いてくれることもなくなりました。そしてもう誰も私のことを覚えてなんかいないんでしょう。私はこのまま、消えてしまうんです。永遠に、永遠に、消えてしまうんです…」

もちろん、初音ミクは仮想の人格なのでこんな思いを抱かずに済みます。30年後、人々の記憶から消え去ってしまっても悩み苦しむこともありません。ですから今は、思う存分歌声を披露して下さい。

 

UFO

  • 2007年12月18日 23:56
  • UFO

政府は嘘をついています。だってわたしは、UFOを見たんですから。実際にこの目で見たんです。夕方の空に浮かぶUFOを、見たんです。間違いありません。あれはUFOなんです。UFOは存在するんです。UFOの話をわたしから聞いた後、政府に関係する人に話してしまったから、山本さんは政府に消されてしまったのでしょう。この世界での存在も、みんなの記憶からも、政府は山本さんに関する全てを消してしまったのです。怖いことです。ああ、次はきっとわたしが政府に消される番なのかも知れません。

 

柩の中

  • 2007年12月11日 17:43

あなたは何処にいるの
あなたは何処へ行ったの
あなたは今何をしているの

柩の中からわたしは
わたしはあなたを呼び続ける

聞こえない…あなたの声が聞こえない
もっと顔を寄せて
わたしにあなたの声を
あなたの優しい声を聞かせて

わたしはずっとここにいる
この柩の中に一人きりで
そしてあなたを呼び続ける
この暗く冷たい柩の中から
あなたを呼び続ける

 

ロールプレイング

  • 2007年12月 9日 15:28

寒気がして目覚めると、私は魔法使いになっていました。ちょうどロールプレイングゲームの中に現れるような魔法使いの女性の格好をして、酒場とみられる建物の前で立っていたのです。風の強い、寒い夜でした。

初め私は自分が夢の中にいるのだと思いましたが、どうも夢にしては思考と感覚が鋭いのです。いつも見る夢の中では世界全体に半透明の薄い覆いが掛けられていて、幸福にも似た独特の軽やかな感情を持ちながら動くことができたのですが、まるでそれがありません。現実と同様に、意識すると気付くことができるような重い怠さを感じられました。それに夢の中では、いちいち自分がいる場所について考えを巡らすことなどまずないはずなのです。これは紛れもなく、現実でした。夢ではなく現実の中に、私は存在していたのです。

現実であるならば、なぜ私はこんな格好でこんな場所にいるのか、私は全く思い出せませんでした。いくら記憶を探っても、私は現実世界の自分の部屋のベッドの上で眠りに就いたことまでしか覚えていません。もちろん私は魔法使いでもなく、ただの高校生だったのです。ただの高校生として、私は眠りに就いたはずなのです。それが目が覚めると、こうして良く分からない世界に魔法使いのような格好をして立っていたのです。不思議である前に、不気味でした。

酒場からは、グラス同士が触れ合う乾いた音と大人たちの騒がしい笑い声が聞こえてきました。時々酒場へ出入りする人がいて、その度に温かい光がこぼれていました。そして静まっていた風が再び強く吹き始め、私の身を凍えさせます。ああ、酒場へ入ったら、どんなに暖かいことだろう。でも私は未成年、入ったらおっかない大人たちに叱られてつまみ出されるかも知れない。そうしたら私は、何処へ帰ればいいの?

「なんや、こないな所におったん。はよ付いてきいや」

突然、そう言いながら後ろから私の肩を叩いた人がいました。驚いて振り返ると、私と同じように――ロールプレイングゲームに登場する勇者のような格好をした、真面目そうな男の子が立っていました。そしてそのそばに、それぞれ武闘家、僧侶の格好をした女の子もいたのです。私は可笑しくなりました。まるでドラゴンクエスト3のコスプレイヤーの集まりみたい。はたから見たら奇妙な集団だ。こんな格好をしてどこへ行くというのだろう。

「なに笑ってるの?これから過酷なレベル上げなんだよ」

気の強そうな武闘家の格好の女の子が眉をひそめながら言いました。私ははっとしました。この人たちは、真面目だ。お遊びのコスプレをしているんじゃない。至って真面目に、こんな格好をしているんだ。笑っちゃいけない、笑っちゃいけない。

「レベル上げ?レベル上げって…」

「町の外で、スライムと大カラスをひたすら倒すちや。げにまっことだれるき、覚悟しちょきよ」

僧侶の格好の女の子が拳を上下させながら言いました。スライム、大カラス。この世界は、まるで、いえ、もうそのままドラゴンクエストの世界のようでした。勇者と旅をする、つまりこれから幾千もの敵と戦い、幾千もの傷を負わなければならないのです。私は自分の置かれた状況に気付いて、全身が青ざめていくのが分かりました。

「立ち話しとる暇なんてあらへん、行くで」

せっかちな勇者はさっさと一人で町の出口へ行ってしまいました。それに続いて武闘家、僧侶が走り出しました。私は、行きたくない、けれども行かなければ路頭に迷うことになる、ですから行かなければなりません。私も三人に続いて、おろおろと町の外へと出て行きました。

町を出てから私たちはしばらくふらふらと草原を並んで歩いていました。夜の空を見上げると、星々が明るく輝いているのが見えます。それはまるでプラネタリウムで見るような、はっきりとした光でした。私が高校生だった世界では、このような光景を夜空に見たことはありませんでしたから、私はその美しさに小さな感激を覚えました。不安ばかりの見知らぬ世界だけれど、このようにささいな喜びがあちこちに転がっているのでしょう。それを一つ一つ心の糧としていけば、きっとこの世界でもやっていける。私はそう思ったのです。そう思った矢先のことでした。

「スライムや!」

勇者の大きな声が、辺りの静けさを突き破ったのです。声のする方を見ると、ゲームで見たようなスライムが20匹ほど、ぷるぷると震えながら笑っています。初めて見るスライムたちはその大きさが人間の頭ほどで、思っていた以上に大きく思えました。その姿は可愛らしいながらも、私たちを狙うはっきりとした敵意が感じられました。

私が身震いしている間に、武闘家の女の子が奇声を上げながらスライムの集団へ向かって駆け出し、そのうちの一匹をぼこぼこに殴りました。殴られたスライムは声にもならない声で叫びながら白目をむき、口から泡を吹きながらどろどろになって地面へ溶けていきました。

それを見て、勇者と僧侶もスライムへ攻撃を仕掛けました。たじろぐこともなくそれぞれの武器を振り回して、一撃でスライムの息の根を止めました。おそらく私以外の三人は初めての戦いではないのでしょう。明らかに手慣れた様子でした。

「おい魔法使い、呪文で一掃せえや!一掃やで!」

私がどうしようかまごついていると、勇者が振り向いてそう言いました。呪文。そうです、この世界では、私はゲームのプレイヤーではなく魔法使いなのです。誰かが動かしてくれるわけではありません。自分で動かなければならないのです。勇者に言われ、何か呪文が使えないか自分に問い掛けました。そして、呪文は一つしか覚えていないことに気が付いたのです。その上ただの一度たりとも使ったことがありませんでした。ですから、実際に呪文が使えるかどうかは分かりませんでした。

適当に頭にある呪文を自信なさげに呟くと、弱々しいながらもめらめらとした炎の球が私の指先から放たれました。そして夜の闇をほんの少しだけ明るく染めながら、一匹のスライムへと飛んでいったのです。火の球はスライムに当たると、鉄板で肉を焼く時のようにじゅうじゅうと音を立てながらスライムを焦がしていき、やがて溶かしてしまいました。私は驚きました。私は本当に魔法使いだったのです。呪文を使い、スライムを倒したのです。

「ああ、私、呪文が使えた」

初めての感覚に感激もひとしおでしたが、なぜか勇者は期待外れと言わんばかりの呆れ顔です。

「なんや、使われへんやっちゃなあ!一掃言うたやろ。ほんまへぼいわ」

嫌な言い方でした。心にぐさりと刺さる、嫌な言い方でした。私は初めての戦いなのです。戦いの右も左も分からないのですから、"へぼくて"当然なのです。戦いに慣れた三人には敵わないながらも、私は頑張っているつもりでした。頑張って呪文を繰り出し、スライムを一匹倒したのです。勇者が私に何を期待していたのか知りませんが、これが私の精一杯なのです。それを使えない奴だなんて、全くひどい言いようです。私は一言で、勇者のことを嫌いになりました。これから先、こんな人間と四六時中一緒に過ごさなければいけないなんて。そう思うと、私は気が重くなりました。ああ、帰りたい。高校生だった世界へ、帰りたい。友達のみんなと、一緒にカラオケへ行きたい。

私がため息をついていると、スライムが私を目がけて体当たりをしてきました。体を揺さぶる突然の衝撃に驚き、私は地面へ転んでしまいました。戦闘の後方にいる私が攻撃されるとは思わなかったのです。軟らかそうな外見とは裏腹に、スライムの体当たりは重く痛いものでした。スライムは一匹攻撃を終えるとそろそろと群れへ引いていき、続いて二匹三匹と次々と私に襲い掛かってきます。

「きゃあ痛い、痛い、やめて」

やめてと言ったところで、言葉がスライムに通じることはありません。残りのスライムも次々に私を、私だけを狙って体当たりを仕掛けてきます。おそらく私の弱いことを悟り、私を標的としたのでしょう。卑怯なスライムたちです。

勇者たちはただ見ているだけで、誰も助けてくれませんでした。この世界では、自分の身は自分で守れということなのでしょう。ですがあまりにも酷すぎます。初めての戦いで、こんな目に遭うなんて。私は悲しくなりました。しかしスライムたちの攻撃は止みません。体力も奪われていき、そのうち言葉になるような声も出せなくなり、立ち上がる力すらもなくなりました。

「ああ…あ…」

勇者たちはぼろぼろになり転がっている私を見て、失笑していました。

「あかんな」

「だめね」

「いかんちゃ」

三人の冷たい声が聞こえた後、私はとうとう力尽きてしまいました。勇者たちとスライムたちがどうなったかは知りません。硬く冷たい大地を感じながら、私は意識を失ったのです。


その後私は教会で目が覚めると、酒場へ連れられて勇者に別れを告げられました。使えないからパーティから外れてもらうという、一方的な宣告でした。

「商人のおっさんは金儲かると思うたけど全然儲からへんでだめやったなあ、魔法使いのねーちゃんも非力でだめや。次どないしよ」

「一人だけレベルが低いとやりにくいのよね」

「イケメンで強い戦士がえいがよ」

茫然としている私を置いて酒場を去ろうとしながら三人が話しているのが聞こえました。

 

手伝いサンタ

  • 2007年12月 5日 16:05
  • UFO

私はサンタさん。正確には、サンタのお手伝い。今年から、借金まみれでズブズブのおじいちゃんを手伝うことになったの。ばかなおじいちゃん。「これからは投資の時代だ」なんて言って慣れない先物取引なんかに手を出しちゃって、あっと言う間に借金が雪だるまみたいに膨れあがって、今じゃ借金取りにぺこぺこしながらあちこち金策に回ってる現状。"子供たちに夢を与えるサンタさん"が聞いて呆れちゃう。ほんとばかなおじいちゃん。

でもおじいちゃんは優しいの。私が六歳の時、パパとママは発情期のトナカイたちに撥ねられた上にシロクマの家族に食べられて死んじゃったんだけど、独りになった私を小学校、中学校、高校と卒業させてここまで育ててくれたのは他でもない、おじいちゃん。おばあちゃんと早くに死に別れたらしいんだけど、サンタクロースのお仕事で忙しい中、私を男手一人で育ててくれたの。家事も得意だし、何より料理も上手。私にとって何一つ欠点のない自慢のおじいちゃんなんだ。借金まみれになるまではね。

でも借金まみれになったって、おじいちゃんはやっぱり優しくて明るいおじいちゃんのまま。私の前では借金の愚痴もこぼさないおじいちゃんのこと、私は大好き。おじいちゃんを手伝うって言ったのも、私がおじいちゃんがこれまでしてくれたことのお返しをしたいと思ったからなの。おじいちゃんの借金を少しでも減らせるように、私は頑張るんだ。

サンタクロースの仕事。これはもう誰でも知っているかも知れないけど、子供たちのお願いを聞いてプレゼントを届けること。このお願いを聞くって段階が一番面倒なんだよね。子供たちから直接聞くわけができないから、子供たちの親から間接的に聞くことになる。でも戸別訪問するわけじゃないよ。十二月の初めから中頃、地域ごとに秘密の集会が行われて、そこで親が子供たちの希望を伝えるって形式が主流になってる。今はインターネットで受付とかできるみたいだけど、便利になったもんだね。

サンタクロースは一人しかいないって信じてる人もいるかも知れないけど、ほんとは違う。元々は代々世襲制で、ヨーロッパの富裕層の病気の子供たちを喜ばせるために一人でプレゼントを届けていたんだって。でもそのうち1840年頃からもうサンタクロースの存在が世界中の子供たちに知れ渡っちゃって、一人の手じゃとても負えなくなったの。ほら、サンタクロースって基本的に善人でいなきゃならないって建前があるから、全ての子供たちに平等でなきゃいけないでしょ?逆に言えばサンタクロースを知らない子供たちには平等でなくてもいいってこと。だからそれまでは一人でもなんとか回れてこれたらしいんだけど。ある意味嫌な性格だよね。

それで1845年から、毎年三月に国際サンタクロース会議がフィンランドのロヴァニエミで開かれて、サンタクロースとなる人が決められることになったんだ。デンマークで開かれる世界サンタクロース会議とは別物だからね。サンタクロースは八割くらいが前年と同じ人間が務めることになってる。残りの二割は、高齢のために引退するか素行不良で追放されて、代わりの新人が任命されているの。新人って言ってもみんな60を越えてるんだけどね。今年は全世界で4293人のサンタクロースが選ばれてるんだ。おじいちゃんもその一人。こうして考えると、誇らしいなあ。

今年は私もお手伝い。今はおじいちゃんと一緒に集会へ行って、子供たちの願いを親御さんから聞いている段階なんだけど、これからもっと忙しくなるんだろうなあ。色々なところにプレゼントを発注して、地域ごとに仕分けして、そしてお届け。頑張らなくっちゃ。

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