茨城症候群

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「今日といい昨日といい、無闇に暑いな」

「うん、暑いね」

暑さにうんざりした様子で地面にべったりとへばり付くように寝そべっているシロに、僕はうちわをぱたぱたと扇いでやる。うちわの上下の動きに従うように、シロの白い毛と髭がそよそよとなびく。

「それに最近、地震が多い」

「うん、多いね」

シロは寝そべりながら、目を閉じ、顔も体も動かさずに話している。こんな様子のシロは、いつも大抵何かを考えている。きっとまた、おかしなことを言い出すに違いない。

「……これは多分、地の底の大鯰が動き出したんだろう。そうに違いないぜ」

「うん、そうだね」

ほら、来た。僕の予想通りだ。何年も生活を共にしていると、二口目には何を言うかすら分かってしまうものなんだろう。

シロは何処から知識を仕入れたのかはしらないが、僕が随分前にシロを拾ってきた時には、大鯰やら月の女やら、既にそういった話に通じている程だった。

まあ、猫が言葉を話すという時点で僕は驚いたのだけれど。もう今では、そんなことは僕の中では当然になってしまっている。

「おいら、ちょっと鹿島さんの石の様子を見て来ようと思っている」

「鹿島神宮の?」

僕はうちわを扇ぐ手を止めた。するとシロはこちらをじろりと向く。どうやら扇ぐのを勝手に止めるなとでも言いたいのだろう。僕が再びうちわを扇ぎ始めると、シロはまた元通りに向こうに顔を向き直した。

鹿島神宮といえば、地震を起こす大鯰を抑えていると言われる要石が置かれていることで知られている神社だ。けれど大鯰が地震を起こすやら石で大鯰を抑えるなんて、科学的根拠もない土着の迷信というか伝承に過ぎない、と僕は思っている。

それを冗談の欠片も見せずに至って真面目に言うものだから、正直僕は戸惑った。鹿島神宮へ行く、とシロは言うけれど、まさか連れて行け、とでも言うつもりなのだろうか?

乗り換え一回で鹿島臨海鉄道に乗り換えれば鹿島神宮へは行けるものの、ここからでは二時間は掛かる。この暑い夏に、そんなのは御免だ。行くなら一人、いや一匹で行け、とでも言いたいけれど、歩いていくのは大変だから連れて行け、と実際に言われれば、きっと僕は一緒に行ってしまうことになるんだろう。

「きっと山本の所のバカ猫がサボってやがるから、石がずれちまったんだ。あのバカ猫め」

「石がずれたから、鯰の動きが活発になって地震が多くなっている、とでも言うの?」

「ああ、そうだよ。そうに違いない。そうとしか考えられないな」

シロは相変わらず寝そべってはいたけれど、横から覗いて見ると、その顔には何処か怒っている様子が見て取れた。"山本の猫"についてはシロの口からは以前から何度か聞いたことはあったけれど、詳しいことは僕は知らなかった。

「ああ!あのバカ猫をとっちめてやりたいが、そんなのは後回しだ。おいらは行かなきゃならねえ」

シロはそう言うと、のっそりと立ち上がった。そして大きく体を前後に伸びをすると、こちらを振り返って言った。

「もうおいらは今すぐにでも行かなきゃ駄目だ。しばらく留守にするぜ。月の女はまさかここには来ないとは思うが、まあ気を付けてくれよ」

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