茨城症候群

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月は沈み、文月が始まる

「見てご覧、月が沈んでいくよ」

かわたれ時に、僕は西の方へ沈む月を見た。ほんの少し前までは、あんなに上の方にあって輝いていた月が、今ではもう光を失いかけて、空の向こうへ消えようとしている。

代わりに東の方には、力を取り戻したかのように光を放つ太陽がだんだんと空へ昇る様子が見える。久し振りに見掛ける、真っ白で真っ直ぐな、力強い光だった。

「白い月の女なんて居なかったんだな」

ベランダの椅子にちょこんと乗っているシロが、少し残念そうな顔をして言う。

「うん、きっと誰かが悪い夢を見ていたんだろう」

僕はそう言って、シロの頭を撫でる。シロはにゃあと鳴くと、部屋の中へ入っていった。

シロに続いて、僕は部屋へ戻る。戻り際に西の空を見ると、もうすぐ月が消えるところだった。僕は月が沈み終わるのを見届けず、部屋へ入っていった。

「もう今年も、半分が終わったんだね。もうこれからは、夏だよ」

「夏か。おいらは、夏なんて嫌いだ。暑いからな」

シロは、お気に入りの場所なのだろう、いつものテーブルの上へ乗って、次第に明るくなる日の光を浴びながら、前足で顔を洗っていた。

「今年はクーラーがんがんで頼むよ」

「猫は猫らしく、部屋の中じゃなくて、外の車の下で涼んでいればいいさ」


七月が、始まった。

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