茨城症候群
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留年
- 2008年5月17日 00:39
「先生、留年の心得をお聞かせ願います」
「まず馬鹿にされます」
「馬鹿にされますか」
「親がべらべらと喋るものですから、こちらの知らぬ間に親族中に事実が知れ渡ってしまいます」
「たまに顔を合わせる時は面倒ですね」
「ええ、確かに面倒なことは面倒なのですが、不思議と誰も私が留年したことについて訊いて来ないのです」
「それは不気味極まりないですね」
「心底で馬鹿にしているんでしょう。話題を避けるという仕方で私を遠回しに馬鹿にしているんです」
「友人等からはどう扱われますか」
「こちらは真面目に馬鹿にされます」
「真面目にですか」
「明らさまに馬鹿にするものですから、大変癪に障ります」
「同情もされませんか」
「そんな人間は中途半端な知り合い位です。しかし中途半端な知り合いの中途半端な同情は余計に癪に障ります。同情されたからと云って単位が貰える訳ではありませんから」
「同期入学の学生は上の学年へ行って仕舞う訳ですが、こちらはどうですか」
「やはり馬鹿にされます。殆ど関わりの無かった人間などからは汚物を見る目付きで見られるのです」
「汚物は嫌ですね」
「そんな目で見られるものですから、こちらも本当に汚物にでもなって仕舞ったかのような錯覚を覚えます」
「では同級生になる下級生などはやはり厄介ですか」
「厄介も何もありません、知り合いも居なければ河原の晒し首です」
「晒し首ですか」
「まあ初めの内ですが、講義室ではこちらを向いてにたにたとする声が彼方此方で聴こえて来るのです」
「緊張から来る幻聴覚ではありませんか」
「いえ幻覚なんかじゃありません、実際にこちらを見てにたにたとしているのです。あれは誰だ、何だあいつは、と声すら聴こえて来るんですから。晒し首の気持ちが解るような気がします」
「そりゃ怖いですね」
「二ヶ月程するとそんな声も聴こえなくなり、室内の雰囲気に不自然に自然と溶け込むようになりますが、やはり初めの内のにたにたに打ち克てなければ不登校になります」
「中学生のようですね」
「中学生ならまだいいんです。大学生が不登校になったところで、誰も助けてくれやしませんよ」
「そりゃ困りますね」
「そうして不登校になるからまた次々と単位を落とし、翌年も進級出来なくなるんです。これが留年スパイラルというものでしょう」
「先生は三度留年していますね」
「不可ませんか」
「いえ不可ないことはありません。先生はよく卒業に至ったものだと感心しているんです」
「私は怠けていただけですから当然の報いです」
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