茨城症候群

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X-山本

  • 2008年1月 2日 18:39
  • UFO

手伝いサンタ3

泣き止まない妹を連れて帰ると、家の中には誰もいませんでした。僕が山本さんの家へ家庭教師に行くと言った途端、機嫌が悪くなったり泣き出したりしてしまった、名前も定かではないあの妹たちが、いなかったのです。何処へ行ってしまったのでしょうか。

あるいは、僕はただ幻覚か夢を見ていたのかも知れません。確かに現実であるという確信はありましたが、今さっき山本さんの家が空間ごとなくなってしまったという事実を目の当たりにしてきたのです。何が現実で、何が幻覚であるのか、僕には区別が付かなくなってきたのかも知れません。一緒にいる妹の前では平静を装ってこそいましたが、僕は内心ひどく混乱していたのです。

「山本さん…山本さん…」

居間の灯りを点けると、妹はテーブルに顔を伏せて唸るように声を出しました。きっと妹も、いえ、妹の方こそ混乱しているのでしょう。親友の山本さんが、突然、いなくなってしまったのですから。

僕自身も混乱してはいましたが、それを妹の前で晒し出すわけにはいきません。もしも僕が落ち着きを失ってしまったなら、この妹はその混乱をどこで消化させればいいのでしょうか。妹が塞ぎ込んでしまえば、その一生を不幸の内に過ごすことになるかも知れないのです。そんなことを僕はみすみす許すことはできません。僕が、妹の混乱の消化を助けなければならないのです。

「落ち着いて、テレビでも見ようか」

いつも帰宅するとしているように、僕は居間のテレビを点けました。いつも通りの日常を過ごさなければ、一旦遭遇した非日常はいつまでも消えやしないのです。ですからいつも通り、いつも通りのことをしなければなりません。

テレビでは、ちょうどニュース番組が流されていました。

――「さて、次のニュースです。秋田県秋田市で、一昨日から行方不明になっている二人の少女の捜索が、今日も続けられています。行方不明になっているのは、秋田市に住む…」

そのニュースによれば、二人の少女達が、一昨日の昼から行方知れずになっているとのことでした。彼女たちのうち一人は、奇しくも山本という姓であるそうです。この年末に、何処へ行ってしまったのだろう。どうせ家出か何かなのではないかと思いましたが、次に映し出された画面を見て、僕は吹き出してしまいました。

インタビュー画面には、"少女の祖父"という肩書き文字付きで、顔にモザイクの掛けられた老人が映し出されていました。そこに特には何も感じません。ところが、モザイクの向こうに見える豊かな白髭、そしてその老人の着ている真っ赤な服が、サンタクロースを思わせたのです。いくら昨日がクリスマスだからといって、高齢の一般人がサンタクロースを装わなくてもいいのではないのでしょうか。

――行方が分からなくなった時の状況は?

「わしが悪いんじゃ…。わしが、朝、何も言わずに金策に出て行ったから、きっとその後を追っているうちに…。うっうっ…。わしが、わしが悪いんじゃ…。」

――誰かに会うなどの予定はあったか?

「いいや、そんなふしだらな孫娘じゃない。本当にいい孫娘で…。わしの借金を働いて返そうと、わしの手伝いをしてくれていたのに…。うっうっうっ…。」

僕がインタビュアーなら、「ところで、どうしてそのような格好を?」と訊きたいところなのですが、そこでインタビューは終わっていました。事件に関係ない点は訊かないのでしょう。例え訊いていたとしても、放映はされないのでしょう。老人の服装が気になって仕方がありませんでした。

――「警察では、山本さんらが事件か事故に巻き込まれた可能性があるとして、両面からの捜査を続けています。…では、次のニュースです。…」

妹は、泣き止んで目を赤く腫らしながらテレビを見ていました。いくらか、日常の感覚を取り戻しつつあるのかも知れません。

お爺ちゃん

  • 2008年1月 4日 18:49

「ああ!原油は高騰!株価は下落!円は上昇!学力は低下!子供は減少!もうダメじゃ!もうダメじゃ、この国は!」

元日、家族でこたつを囲んでおせち料理を食べている時に、祖父が突然、狂い踊るように体を捻りながらそう叫んだんです。まるで、興奮して収拾の付かなくなったラップダンサーの動きのようでした。普段の祖父は、時に厳しく怒ることもある頑固者でしたが、穏やかでいる時には奈良の大仏のように穏やかで、優しい祖父なんです。それが、今や大仏の面影は微塵もなく、シヴァの如く踊りに狂っていました。

私はびっくりして、食べていたお雑煮のお餅を危うく詰まらせそうになりました。私以外の家族もみんな目を丸くさせながら、箸の動きを止めて祖父を注視していました。兄は酢蛸に染み込んだ酢の成分を吸い込んでしまったようで、ごほごほと激しく咽せています。ピンク色のかたまりが、兄の口から向かい合う祖父の額へと飛んでいきました。ぴたりと額に蛸のかすを付けた祖父を見れば、普段なら家族で笑いが起こるはずでしたが、今はそんな状況ではありませんでした。

「お爺ちゃん、正月からどうしたの…?」

「どうしたもこうしたもない!持たざる者は永遠に持たざる者!持つ者は永遠に持つ者なのじゃ!どうなる?この国はどうなる!?滅ぶのか?滅びるのか!?」

祖父はますます興奮して、立ち上がって腕をばたばたと振り、ダメじゃダメじゃと言いながらこたつの周りを回り始めました。その様子にたまらず見かねのか、普段はいつも穏やかな母が机をばんと叩いて祖父に怒鳴りました。

「お父さん、やめて下さいな!静かにして下さい!」

「黙れ黙れ!これもそれも、お前らが悪いんじゃ!お前らが日本をダメにしたんじゃ!65年前はなあ、わしらは鉄砲や爆弾を持って支那の地で戦っていたんじゃぞ!明日生きるも死ぬも知れなかったんじゃ!この国は、わしらが命を賭けて守ったんじゃぞ!それをお前らは…ダメにしたんじゃ!わしらが必死で守ったこの国を、ぐっちゃぐちゃのどろんどろにして、ダメにしたんじゃ!」

母の制止も聞かず、祖父は怒鳴り返し、なお踊り続けています。普段は白い顔も、酒も入っていないのに蛸のように赤みを帯び、紅潮してきました。

「お爺ちゃん、やめて!血圧上がっちゃうでしょ!」

「うるさい!血圧なんざとっくの疾うに上がっとるわい!原油価格と同じじゃ!」

もう80を越えている祖父には、高血圧の持病がありました。毎月一度は受診に行き、薬を数種類処方されているのです。薬学生の私はそれを知っていましたから、狂ったように怒鳴り、踊り続ける祖父の体調が余計に心配になったんです。このまま祖父が激しく体を動かし続ければ、ふらふらと倒れてしまうかも知れない。それじゃいけない。それじゃいけないんです。

私にはある夢がありました。祖父、両親、兄、家族みんなを、私の結婚式に招きたいという夢です。祖父はもう数十年前に祖母と死に別れていました。祖父が頑固者になったのも、祖母と別れた寂しさからなのかも知れません。そして父と母は仕事に忙しい毎日で、普段家にいることはありませんでした。ここ最近は、両親は帰宅するといつも疲れた様子で、家族で団欒する暇もなく寝てしまう日がほとんどです。兄は兄で、高校を卒業してからずっとコンビニ店員を続けています。特に仕事が辛い様子もなく休日は多いんですが、兄自身は30歳が近くなりこのままフリーターを続けていいのか悩んでいる様子を見せることもありました。

そんな家族ですが、私の大切な家族なんです。私は私をここまで育ててくれた家族に、とても感謝しているんです。その家族みんなに、私が幸せであることを見せてあげられたらどんなに喜ぶか、いつも私は考えていました。

私には付き合っている男性がいました。同じ大学で二つ年上の、優しい人です。今は近所の子供たちの家庭教師をして生計を立てているそうですが、今年の四月から製薬企業の研究職で働くことが決まっています。

彼とは、私が卒業したら結婚しようと約束をしていました。予定の日まで、あと二年です。あと二年すれば、家族みんなを喜ばせてあげられる。家族みんなの笑顔が見られる。あと二年、それ以降も、家族みんなが健康でいられますように。今年の初詣でも、私はそう神様にお願いしたんです。お賽銭も奮発して、一万円を上げました。それくらい、私は家族の健康を強く願っていたんです。

だから、祖父にここで倒れられると困るんです。本当に困るんです。私は、踊りをやめない祖父をどうしたらやめさせられるか、考えました。

「ダメじゃ!ダメじゃ!この国は!崩壊じゃ!滅亡じゃ!」

「お爺ちゃん、もうやめて!」

私は泣き真似を試みました。えーんえんと、声を出しながら顔を押さえたんです。ですが、国を憂う祖父には、孫が泣くことなどもうどうでも良かったのかも知れません。うるさい黙れと祖父に一喝され、私は泣き真似をやめました。一体うるさいのはどちらなんでしょうか。私はだんだんといらいらしてきました。

何としても祖父を止めないといけない。このままじゃ、このままじゃ…。

「お爺ちゃん、やめて!…もうやめて!」

「何をするギャー」

ばりんという音にハッとすると、お爺ちゃんが目の前に倒れていました。私の右手には、割れたコップが握られていました。

mml-test

  • 2008年1月12日 13:28
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反捕鯨キャンペーン

  • 2008年1月17日 16:49

「こりゃやばいね。何がって?鯨だよ。鯨のことさ。最近、日本人が南極で調査捕鯨をしているだろう?あれだよ。

何も知らない純粋な鯨が、日本人の仕掛けた網にほいほいと掛かって、ああ動けないよ、何が起きたの、そう思っている内に、船から鋭い切っ先を持つ銛が飛んできて背中に刺さる。水中に拡がる真っ赤な血しぶき。ぎゃあ痛いよ痛いよ、何するの日本人、やめて、銛を抜いて、抜いてよ。でもそんなこと聞かずに、鯨を引き上げようとする。逃げなきゃ、逃げなきゃ、でも動けないよ、ああ痛い痛い、苦しい、苦しいよ。そうして鯨は何十分ももがき苦しんだ挙げ句に、窒息して死んじゃうんだ。残忍だよ。これを残忍と言わずに何と言うんだ。全く、日本人というのは60年前の失敗から何一つ学んじゃいないんだね。

僕が今まで会ってきた日本人は、口を揃えてこう言う。『鯨は絶滅することなどない、寧ろ鯨が増え過ぎて他の海洋生態系に影響を与えている』いつもそうだよ。日本人は一体、鯨に何の恨みがあるって言うんだろうね。鯨にShogunが囓られでもしたって言うのかな。僕はそんな話、聞いたことがない。Shogunは誰一人として、鯨に囓られてなんかいないんだ。つまりどういうことか?日本人は、鯨を食べたいから食べているんだ。そして乱獲する。こりゃ酷い話だよ。

彼らの論理によれば、食べたければ何を食べてもいい、殺したければ誰を殺してもいい。そういう論理なんだ。恐ろしいよ。恐ろしくて僕は夜も寝られないな。どうしてって、彼らと意見の合わない僕なんて、寝ている間にNinjaに暗殺されちゃうかも知れないからね。おお怖い。僕がSushiなんて食べに行ったら、Fuguにテトロドトキシンを盛られて殺されちゃうんだ。そして彼らはきっとこう言うよ。『R.I.P、可哀想なGaijin。私たちは悪くない、Fuguが悪いのです。FuguはKanjiで河豚(river-pig)と書きます。そしてイルカは海豚(sea-pig)と書きます。Fuguとイルカは豚兄弟なのです。イルカは鯨と同種です。つまり全ては鯨が悪いのです。そう、悪い鯨は獲らなければならない。だから私たちは捕鯨をしなければならないのです。悪い鯨は、食べてお仕置きです。』滅茶苦茶な理屈だよ。日本人は、いかれてる。

それにしても、日本人はよく鯨なんて食べていられるよ。いいかい、鯨は僕たちの仲間なんだ。鯨は賢い。鯨は独自の文化を持っている。下手すりゃ鯨は、僕たち人間よりも高度な文明を築いているのかも知れないんだよ。"かも知れない"じゃない、多分、いや、絶対に持っているに違いないね。

知っているかい?鯨はお互いに会話することが出来るんだぜ?歌だって歌えるんだ。色んな種類の歌声を出して、踊って楽しむこともあるんだ。僕たち人間とどう違うって言うんだ?違わないさ。鯨は僕たちと一緒なんだ。僕たちと同様に、話し、考え、生きている。そんな鯨を僕たち人間は、食べたいからと言って殺すことなんて出来るだろうか?僕には出来ない。だって鯨は、愉快で楽しい僕たちの仲間なんだから。

僕に言わせりゃ、捕鯨は殺人と同義だ。捕鯨を権利だと言って聞かない日本は、無知で愚かな殺人国家だよ。さすが、死刑が法律で定められている国だね。法の下に一人の人間を殺せるくらいなんだから、鯨なんて何億匹殺したってどうとも思わないんだろう。僕の国は、鯨なんて獲らないし、もうとっくのとうに死刑なんて廃止されているからね。日本は、文明後進国なんだよ。早く日本人みんなに、自らが世界に後れを取っていることに気付いてもらいたいね。そして、捕鯨が恥ずかしい行為であることを自覚して欲しい」

彼はそう言うと、オージー・ビーフをぱくりと食べた。

「牛?牛はいいんだよ。馬鹿だからね」

ラフレシア

  • 2008年1月21日 01:08

私の周りにはキモイ男ばっかり。性格のいい男が一人でもいればいいんだけど、揃いも揃ってだらしのないヒョロヒョロの腑抜けどもが集まってるの。ましてやイケメンなんて、一人もいやしない。別にイケメンじゃなくったっていいんだけどね。私、面食いじゃないから。でもいくら面食いじゃなくても、今の私の周りの男どもはお断り。話をすれば、ゲームかアニメの話題しかしようとしないし。だから友達としての付き合いも勘弁してもらいたいくらいなんだもん。進学校とはいえ、どうしてこんな男しかいないのかなあって、いつも後悔してる。

高校の部活の友達、Kにそのことを話したら、突然携帯を取り出して、あるサイトを勧めてきたんだ。嬉しそうにサイトに繋ぎながら、私に携帯の画面を見せて説明してくれた。サイトのタイトルは、"Rafflesia"。ラフレシア――花の名前なんだけど、まるでどこかのホストクラブにありそうだよね。いらっしゃーいって迎えてくれるホストたちの姿を想像してちょっと失笑しそうになったんだけど、Kがとても嬉しそうだったから黙って話を聞いてみたんだ。

「ね、このサイト、超お勧めだよ。ま、いわゆる出会い系サイトなんだけど、タダで登録できるし、男の子の質もいいし。まだマイナーなサイトだから、ヘンな男もいないみたい。何て言うの?IT系?そんな感じの社長がたくさんいるって話だよ」

別にIT系の社長なんていてもいなくてもいいんだけど、Kがとにかくお勧めだって言うから、その場で私も携帯から例のサイトへ繋いでみた。利用規約に、18歳未満は登録しちゃダメって書かれてたんだけど、そんなのあってないようなものだもんね。形骸化、ってやつ?だって女は16歳から結婚できるんだよ。それなのに、出会い系はダメ、っておかしいじゃん。援助交際じゃないんだし、売春しようとしてるんじゃないもんね。でもダメって書かれてるのにそれを無視するのにはちょっと後ろめたさを感じたんだけどさ。プロフィールを誤魔化せばいいか。

名前
ゅき♥
年齢
18
職業
東京の大学生です(*´∀`)ノ
趣味
ぁゅのコンサート
似ている有名人
ょく新垣結衣に似てるって言ゎれます
ひとこと
優しぃ人 箱メ下さぃネン(人*′ω`)

っていうか私、新垣結衣になんか全然似てないんだけど。K曰く、「適当に可愛い芸能人に似てることにしとけば釣れるんだよ」って。釣りとか、そういうつもりでやってるんじゃないんだけどなあ。

家へ帰ってから、またラフレシアへ繋いで私書箱にメールが来ているか見てみた。そしたら、新着メールが7件も届いてたんだ。7件。つまり7人の男が、私に興味を持ったっていうこと。そう思って、なんだか少し嬉しくなった。どんな人たちなんだろう。イケメンかな?リッチマンかな?

とは言え、7人と同時にやりとりするのも面倒だから、メールの返事を2人程度に絞ることにした。だいたい7人が7人とも私の好みってわけじゃないだろうし、7人もいれば半分くらいがだいたいハズレ。まあこれはKの受け売りなんだけどね。


一人目 - 自称イケメン大学生

こんちはっす!俺は埼玉に住んでる、イケメンのアツシです!埼玉の大学生なんだけど、いつもは東京のクラブで遊んでます。今度良かったら一緒に行きませんか?返事下さい!待ってます!

自分でイケメンとか言っちゃう人間にイケメンはいないよね。文面から妙な焦りが感じられるのもマイナス。軽そうだしね。ころころ彼女を変えてそう。たぶん、東京コンプレックスを持ったノータリンだろうなあ。悪いけど、私はこれでも都内一の進学校に通ってるの。おバカなノータリンを相手にする暇なんてないんだから。というわけで却下。

二人目 - 渋谷のバカキング

渋谷のキングだょ。ゅきちゃんと渋谷を支配したぃな。渋谷のクィーンにしてぁげるょ。メールちょうだぃ。

あっそ、一人で勝手に支配してろ(笑)

三人目 - ミュージシャン

ゅきちゃん、初めまして。ミュージシャンやってるタカって言います。ゅきちゃんはガッキーに似てるんだね。オレは三浦春馬に似てるって言われます。恋空コンビ?なんて、厚かましくてすみません。良かったらメール下さい。

今までで一番まともかなあ。やっぱり、文面が落ち着いて真面目なのに越したことはないね。ミュージシャンっていうのも興味あるし。どんなミュージシャンなんだろう?取りあえず保留しとこう。

四人目 - VIPPER

⊂二二( ^ω^)二二⊃ブーン うはwwwww長門有希wwwwww付き合っておwwwww

五人目 - 嫌がらせ

現実でもてないからって、こんなところで男釣ってんなよ。新垣結衣に似てるって嘘だろ。どうせ黒髪ロングってだけなんだろ。ダサ面が新垣結衣似だなんて言う権利なんてねえんだよ。とっとと現実に戻れば?

Kは嘘つきなのかも知れない。『マイナーだから、ヘンな男はいない』って。IT系の社長なんてのも全然いないじゃない。やっぱり、ネットで手軽にいい男と付き合うなんて、ただの幻想に過ぎないのかも知れない。

だけど私は、もてないから出会い系サイトに登録したわけじゃない。現実に満足できないから、ここに来てるだけで。高校の鈍臭いオタクどもに、どうすれば満足できるって言うんだよ。ああ!腹が立ってきた。むかついたから、後でこの嫌がらせ野郎に返信してやろう。

六人目 - キモイおっさん

こんにちワン。今会社から繋いでるんだ。役員なんだけど、暇で暇で仕方ないんだヨ〜。おじさんの家族もみんなおじさんのこと嫌いみたいだしネ。寂しいんダ。。おじさんで良かったら1日3くらいでいいヨ。プラスで5までネ。条件次第でもっと出せるカモ。。

なにこれ。キモイキモイキモイ。このおっさん、まるっきり犯罪じゃん。こんな奴通報して警察に連れて行ってもらいたいくらいだけど、それも面倒だからいいや。だいたい役員が買春するほど暇な会社なんてどんなブラック企業だよ。可哀想なおっさん。一生そうやってお金で体を買ってりゃいいさ。ああキモイキモイ。

私のお父さんだって会社の役員だけど、こんなサイトを見る暇もないくらい忙しいんだ。土日も家にいないくらいなんだから。お陰でお父さんの顔も忘れてしまいそう。きっとお父さんも、末っ子の私の顔なんてもう完璧には覚えていないんだろうな。それでも、お父さんはお父さん。仕事が忙しい中で私が小さい頃に色んな所に連れて行ってくれたのも、お母さんに怒鳴られてしょんぼりしている私を優しく慰めてくれたのも、お父さん。私にとって一人きりのお父さん。嫌いになることなんて、できないや。

だからその分、出会い系サイトで援助交際を持ちかけるようなキモイおっさんは嫌い。大ッ嫌いだ。気が変わった。やっぱり通報だ、こんなの。

七人目 - ??

真剣な交際をお願いします。私は長野在住の20後半のフェムタチです。ゅきさんはガッキー似なんですね。私はガッキーみたいな子、好きです。ネコさんだったらもっと最高です。リバさんでも構いません。ちなみに私は藤原紀香さんに似ています。是非よろしくお願いします。

ネコさん?リバさん?藤原紀香似?どうしてこのフェムタチっていう人、藤原紀香似だと自称するんだろう、そう思ってよく分からない単語を検索したら。……うーん、私にはそっちの気はないので……。


以上7名。あんまり、というか全然ぱっとしないんだけど。Kがお勧めしてくれた理由が全然解らない。まあ、良くも悪くも"ラフレシア"、って感じかな。取りあえず、三人目の自称ミュージシャンに返信しとくかあ。あと、キモイおっさんを通報して、腹立つ嫌がらせに反論して……。

スピリチュアリティ

  • 2008年1月25日 16:26

同窓会で久しぶりに会った旧友に、『最近体の調子が悪い』と何の気もなく言ってしまったところ、強い口調でスピリチュアルカウンセリングとやらを受けることを勧められた。うっかりだった。大して親しくもない人間に、何かの勧誘のネタにされそうな話を喋るものではない。結局断ることが下手な私は、しつこい彼女に上手く言いくるめられてしまい、その怪しげなカウンセリングを受ける羽目になったのである。

最近そのスピリチュアルなんたらがテレビや雑誌で流行っているらしいが、あいにく私はそんなものを信じるような徳の高い心を持ってはいない。私は無神論者だし、何の宗教も信仰してもいない。輪廻転生やあの世の存在すら、無いものだと思っている。人間も結局はモノなのだ。物質で構成される、ただの生きモノに過ぎないのだ。生きモノである以上、人間はゾウリムシと何も変わらないのだ。

人間=ホモ・サピエンスという種類の生物だけ特別で許されるわけがない。人間があの世へいくのであれば、猫もジュウシマツもゾウリムシさえも、あの世へ行かなければならない。生物が残らず輪廻転生するのであれば、猿もクロマグロもゾウリムシも、来世では人間に生まれ変わるのかも知れない。むしろ人間が来世、同じ人間に転生する可能性の方が低いはずだ。そういった確率論をも無視して、あなたの前世は有名な武士だった、高等生物の人間だけは特別だ、などと論じるのはナンセンスに他ならない。馬鹿げている。

いや、もしかすると、馬鹿げているのは私の方なのかも知れない。他人が何に救いを求めようと、それは全く他人の勝手であるのは間違いない。ある人が輪廻転生を信じているからといっても、別に私が迷惑を被っているわけでもない。またある人が古臭い壺を御利益のある物と大事そうに抱えていたとしても、私が眉をひそめるべき話でもない。

彼らが彼らの中で満足している限りは、彼らの信心は全く私には関係のないことである。それを私が非難しようとするのであれば、私の方こそ非難されるべき迷惑な存在なのかも知れない。何かを信仰するもしないも、個人の自由なのだ。それを忘れて、他人の自由を侵すことは許されない。

だからこそ、だ。だからこそ、強引な勧誘というものは迷惑極まりないものなのだ。相手はただそれが良いものだと思って誘うのかも知れない。他の人にも良いものを体験させてあげたいという親切な気持ちで溢れているのかも知れない。しかし、興味も何もない、むしろ関わりたくないものに誘われる身にもなって欲しい。高級なビールをただで飲ませてやると言われたとしても、酒が嫌いで仕方のない人間は一口も飲む気にすらならないだろう。世界一のけん玉チャンピオンのエキシビジョンショーへ誘われたとしても、けん玉を知らない人間には何の価値もないだろう。それを無理矢理にでも連れて行ったりすれば、お節介どころでは済まされない。拉致だ。犯罪だ。

それが脅迫紛いのものであれば、なお悪い。『あなたこのままだと、この先良くないことばかり起こるわよ』。冒頭の旧友は、こんなことを私に言っていた。酷いものだ。彼女は自身の信心を、他人である私に無理矢理押し付けている。明らかに私の自由を侵したのだ。もちろん私がそれを無視すれば済むことだが、悪いことが起こる、などと言われて、誰がいい気をするものだろうか。

私はその場でそんなことは言うなという趣旨の苦言を軽く呈したのだが、彼女は意にも介さない様子で、あなたの生まれ日の日の巡りが悪いだの、これから五年は苦の年だの、先生のカウンセリングを受けないと泥沼にはまるだの、ずいぶん都合のいい都合の悪さを私に弾丸の如く吹っ掛けてきたのだ。私はうんざりした。こうなると言葉の暴力である。表向きはいかに私のことを思っているかを装いながらの発言であるが、その実はただの脅迫に違いない。彼女は脅迫しながら、私にカウンセリングを受けるように迫っていたのである。

彼女がそこまでして私にカウンセリングを受けさせたい理由が、一体何であるかは解りようがなかった。彼女の裏に利益的な何かがあるのかも知れないし、あるいは本当に純粋な親切心からなのかも知れない。いずれにせよ私はそれを知ることができないまま、彼女から明日の午後二時に行けと言われ、一枚のチラシを押し付けられることになった。

スピリチュアル・カウンセラー 山本夢左右衛門

貴方を永遠の漆黒の悩みの沼地から解放し、幸福に光り輝く未来に繋がる道へと導く……今最も注目されているあの山本夢左右衛門が、チャクラ・リーディングによって貴方の悩みに真正面から向き合います。

この世には数多の種々の苦悩が存在します。重なる苦悩に囚われ悩みに悩んだ挙げ句、自らの命を絶つ方も少なくありません。それは不幸なことです。この世の苦悩は仮のもの。仮のものに囚われて命を絶つことは、ひとえに不幸であることに他なりません。苦悩に囚われた時こそ、私たち人間は魂の世界を見つめるべきなのです。魂の世界を見つめることによって、私たちの意識の底で眠っている潜在意識を呼び起こすことが出来ます。我々スピリチュアルカウンセラーの役目とは、魂の世界=スピリチュアル・ワールドへと導き、案内をすることなのです。苦悩の全ては、スピリチュアリティの観点から解決することが可能です。いかなる悩みであっても、どうぞお気軽にご相談下さい。貴方の大きな助けとなるべく、我々はお待ちしております。 ―― 山本夢左右衛門

相談料は初回\15,000(30分) 二回目以降\12,000(30分)となっております。

A4サイズの薄い黄色の紙に、手書きで書かれたチラシである。チャクラだの魂の世界だの、わけが解らない。読んだだけで、気が変になってしまいそうだった。正直なところ、こんな紙切れはすぐ捨てたかった。"最も注目されている"などと書かれているが、私は山本夢左右衛門などという名前を見たことも聞いたこともない。胡散臭いにも程がある。

こんな胡散臭いカウンセリングなんて受けたくもない。変に洗脳されでもしたら取り返しが付かない。私は家へ帰り、やはり受ける気はない、と彼女に電話で断った。すると彼女は、こちらでもう予約をしてしまった、キャンセルにはキャンセル料三万五千円が掛かる、などと言ったのだ。ふざけている。私は怒りを飲み込みつつ、電話を切った。


電車を降り、駅を出てチラシの地図通りに歩いて数分、テナント料の安そうな古臭い雑居ビルの前に着く。その二階に、"山本夢左右衛門のカウンセリング・センター"と書かれた扉があった。センターと名乗ってはいるが、ビルの一室に構えるただの狭い部屋である。扉の下には、小さなゲジゲジが潰れて死んでいた。私は不安な気持ちを抑えながら、部屋の扉を開けた。

「こんにちはぁ」

気だるそうな挨拶が聞こえた。声のする方を見ると、ケバい受付嬢がカウンタの向こうに座っていた。ケバい。バブルの頃の六本木辺りからタイムスリップしてきたかのようだった。

「カウンセリングの予約をしていた者ですが」

正確には、勝手に予約をさせられていた者、だが。名前を名乗ると、すぐに呼びますので少しお待ち下さい、と受付嬢は愛想もなく言った。茶色い長椅子が二つほど並んでいる待合室には、私の他に誰もいない。まあ、ここはそういう場所なのだろう。コートを脱いで座って待っていると、奥の部屋からがたんばたんと物音が聞こえた。他に部屋がないことから、あの部屋がカウンセリングルームなのだろう。物音がするカウンセリングルーム。どんなカウンセリングをさせられるのだろう。私はいっそう不安になった。

「奥の部屋へどうぞ」

受付嬢が相変わらずの愛想のない声で私に言った。


「よくいらっしゃいました。私が、山本夢左右衛門です」

カウンセリングルームの扉を開けると、部屋の中心にあるデスクに向かい、中年男がこちらを向いて笑顔で座っていた。この男がスピリチュアル・カウンセラー山本夢左右衛門という。スキンヘッドで、黒いサングラスを掛けている。一見すると、まるでどこかのメタルバンドにいるボーカルのようだった。外見が重要ではないことも分かるが、スピリチュアルを掲げる人間として、この外見は果たして適切なのだろうか。

「……よろしくお願いします」

「どうぞ、お座り下さい。今日はどのようなご相談ですか?」

別に相談なんてない。ただ付き合いの中の強引な流れで来てしまっただけなのだから。強いて言えば、この場に来ることになってしまった私の、愚かな人の好さが悩みだった。しかし、ここでそんな本音を言ってしまえば、あの私の旧友にどう伝わるかは分からない。この山本と旧友は、実は裏で手を組んでいるのかも知れないのだ。私は自身の言動に細心の注意を払って、警戒しなければならなかった。

「最近、体の調子が悪いんですが」

私がそう言うと、山本はほうほうと言いながら二三度頷いて腕組みをした。

「あなた、最近ご家族を亡くされましたか?」

「もう20年ほど前に曾祖父が亡くなりましたが」

私が産まれてすぐ、もう90を超えた曾祖父が亡くなっていた。私は曾祖父には会ったことがないから、顔も声も知らない。もちろん向こうが私の存在なんて認知していたかどうかも怪しい。なにせ、曾祖父から見た玄孫は、私が産まれた時には既に20人近くいたのである。私の曾祖父には違いないが、お互いの繋がりは極めて薄いものだった。

「おじいさん、ですか。いいでしょう。これからオーラリーディングを行います。少しの間目をつむり、楽にしていて下さい」

「オライリーイング?」

「オーラリーディング。魂の意識を読み取る、チャネリングの一種です。さ、目を閉じて下さい」

山本はそう言うと、右手を私の額の前にかざした。数十秒だっただろうか、薄気味悪い静寂が訪れた。その間、私は薄目を開けて山本を見ていたが、口をへの字にしたまま手をかざしていた。

「……分かりました。あなたは心の底、潜在意識では、おじいさんを目に見える形で愛してやれなかったことに呵まされているのです。体調不良も、それが原因です」

「はあ」

私は曾祖父に後ろめたいことなどは全くなかったのだが、山本によると私は後ろめたくて仕方がないらしい。無理な話だ。母の乳を吸っている赤ん坊が、どうやって曾祖父への愛を表現すればいいものか。私が曾祖父に後ろめたくて体調が悪いのなら、世の中の体調不良の人間はみんなご先祖への供養が足りないとでも言うのだろうか。

「……見えます。おじいさんが、あなたの後ろに立っているのが見えます。そしてこう仰っています。『お前は悪くない、最期までわたしを愛してくれて、ありがとう』と……」

山本の顔を見ると、サングラスの下にうっすらと涙を流していた。何という奴だろう。

「おじいさんは生を全うできて、満足しているんです。あなたを責めてなんかいないんです。あなたは、あなた自身を許してあげなければいけません。一日に一度、おじいさんの名前を呟いてあげて下さい。そしておじいさんの喜ぶ顔を思い出して下さい。そうすれば、あなたも自然に自分を許す気分になれるでしょう」


「一万五千円になります」

笑顔の一欠片も見せない受付嬢にしぶしぶ一万五千円ちょうどを渡すと、私は早足で部屋を出た。またお越し下さい、などと言われたが、誰が二度と来るものか。すれ違いざまに、赤い服を着た白い髭の老人が部屋へ入っていった。ああ、このご老人も変な知り合いにたぶらかされてこんな場所に来させられたのだろう。少ない年金生活から、一万五千円も取られて、可哀想に。

赤鬼

  • 2008年1月25日 19:12

うん、昨日確かに見たんだ。赤鬼、って僕たちは呼んだんだけどね。ほんと全身がゆで蛸みたいに真っ赤で、角が生えてて、えーと、よく見えなかったんだけど、怖い鬼みたいだったんだから。

ちょうど塾の帰りだったなあ。塾の友達、7,8人だったかな、そのみんなで、コンビニで肉まんを買ったあと。ほら、寒かったから肉まんが食べたいって誰かが言い出して、塾の裏のセブンイレブンに買いに行ったんだよ。でも肉まんが三つしかなくて、ジャンケンで誰が肉まんを食べるかって決めたんだけど。ジャンケンに負けて肉まんを食べられなかった人は、あんまんやピザまんを食べてた。僕もそう。ピザまんもおいしかったから良かったんだけどね。

買った後にコンビニの前で食べてたら、コンビニの店員がすんごく嫌な顔をして、「邪魔だからここで食べないで」って言ったんだ。"邪魔"って酷い言い方だよね。僕たちお客さんなんだよ?お客さんに向かって、"邪魔"なんて、酷いよ。でも逆らっても仕方ないから、しぶしぶどいてやったんだ。塾の方に苦情が来たら、また面倒なことになるからさ。

それで、みんなで食べながら歩いてたんだ。何処へ行くでもなくね。僕たちはみんな、中学受験のクラスにいたから、いつの間にか最近の模試の話になった。「この前の模試、どうだった?」「俺私立蟹江、A判定だったよ」って、みんなで言い合ってた。でも、あいつ、吉田だけは暗い顔をしてたんだ。僕が気付いて、どうしたの、って訊いたら、吉田、成績が余りにも悪いから、公立の中学へ行かされることになったんだって。

僕たちの間では、公立の中学って言ったら、変な先生や先輩がいて、そいつらにいじめられるって噂があるんだよ。だって試験もなくて入学できるんだから、非常識な生徒が少なからずいるに決まってんじゃん。そんなのと付き合いたくないし。朱に交われば朱くなる、ってことわざ知ってる?変なのと遊ぶようになると、こっちまでおかしくなっちゃう、って意味。そうなったら、いい大学にも入れなくなっちゃうし、人生おじゃんだからね。だから僕たちは私立に行くんだよ。って、お姉さんに言っても無駄か。

それで、誰かが吉田のこと馬鹿にし始めたんだ。「うわ、お前公立なんか行くのかよ」「だっせー」って。言っとくけど、僕は馬鹿にしてないからね。吉田はどこへ行っても僕の友達だから。吉田が公立に行くことになっても、僕は馬鹿にしたりなんかしないよ。まあでも吉田って気の弱いところがあるから、みんなにいじられやすいんだ。だからいつも僕が話を逸らしてやるんだよ。この時もそう。「みんなDSの欲しいソフトってある?」って、話を振ったんだ。ちょっと強引な話の転換だったけどね。

みんなは口々に「俺FF4が欲しい」とか「マリオパーティがいい」って乗ってきたんだ。取りあえずは吉田のことから話を換えることができたから良かったんだけど、さっき言われたことで吉田が傷付いちゃったのか、うつむいたまま喋らないんだ。吉田、DSマニアって言われるほどDSが好きなのに、ほんとしょんぼりしちゃって。見てるのも可哀想だった。多分、吉田自身公立に行かなきゃならないことにショックを受けてたんだろうね。まあそんな時は放っておくのが一番なんだ。下手に慰めたりなんかしたら、かえって傷口を広げることになっちゃうから。

それでまあ10分くらい喋ってたんだけど、みんなもう肉まんは食べ終わってて、寒いし夜も遅いからそろそろ帰ろうってことになった。みんなそれぞれの帰る方向を向いて歩き始めたんだけど、突然、吉田が指を差しながら叫んだんだ。「たこ!たこ!」って。

その声に驚いてみんなが吉田の差す方を見たら、電灯に照らされて蛸みたいに真っ赤に見えるものがいたんだ。上の方は少し暗くて何だか分からなかったんだけど、誰かが「赤鬼だ!」って言うからよく見てみたら、頭から角が二本生えてて、確かに赤鬼みたいだった。

みんな注意して見てたら、その赤鬼、動き出したんだ。どんどんって、足踏みしたんだよ。動かないものだと思ってたから、ほんと驚いた。だから僕たちは我先にって逃げ出したんだ。早く逃げないとって思ってたから、もう他のみんなのことなんてどうでも良かった。家に帰って、心臓をどくどくさせながら、ああ良かった、生きてるって実感できたね。ほんと怖かった。

そうだ、今日吉田のこと見てないんだよね。学校に来てないんだけど……。

ぼくの主人

  • 2008年1月27日 15:40

俺の主人は、ばかだ。

この前散歩に連れて行ってくれた時だ。歩行者信号が赤なのにも関わらず、ばかな主人は走って渡ろうとしやがった。赤信号は"止まれ""渡るな"って意味だろ?俺だって、そんなことくらい知ってるんだよ。でも主人はそうじゃないみたいなんだよな。

俺が渡るのをためらってるうちに、バスが右から物凄い速さで近付いてきた。それでも主人は、「走れ、走れ」って涼しい顔で言いながら俺を引っ張りやがったんだ。俺の足には、引っ張れば転がるようなローラーが付いている訳じゃないんだよ。いくら引っ張ったって、俺に進む気がなけりゃ、俺の首が痛くなるだけだ。そんなことも分からないで、赤信号の横断歩道の真ん中で「早く、早く」って言うだけ。ほんとばかな主人だ。

危うく俺は轢かれそうになっちまった。今思い出してもぞっとするもんだ。主人が早く来い来いとしつこいから、俺は意を決して横断歩道を渡ったんだ。その時、クラクションを鳴らしながらバスのでかいタイヤが俺の影を踏ん付けていった。恐ろしいことだよ。間一髪で俺の足の速さが勝ったから良かったものの、もしも俺が轢かれていたら主人はどう釈明するつもりだったのかね。まああのばかな主人のことだから、俺が飛び出していったとでも言うんだろう。ひどいもんだ。お前が飛び出したんだろう。

俺の主人は、俺の飯についてもそのばかっぷりを発揮していやがる。俺がいつもかりかりしたドッグフードをばりばりと食べるから、ばかな主人はそれがさぞおいしいものだなどと思っているんだろう。俺は知ってるんだよ。そのドッグフード、ディスカウントストアでいつも一番安く売られている中国産のものなんだよな。中国産だぜ。中国産。道理でかりかりな訳だ。あり得ねえよなあ。

それで俺がその中国産のドッグフードをばりばりと貪るように食べるのは、別に美味しくて好きだからじゃない。食べるものがそれしかないからなんだよ。何も食べなかったら死んじまうからな。あの主人、何かの法律で決められてるかのようにそのドッグフードしか寄越さないんだ。だから不味くても、食べなきゃならない。実際不味いんだ、あのドッグフード。あんなの、誰が美味しいなんて言うもんかね。そんな奴がいたら、いっぺん会ってみたいもんだよ。

俺はね、もっと旨いものが食べたいんだ。一度でもいいから、豪勢に生肉なんかを食べてみたいもんだよ。考えるだけでよだれが出るぜ。まあ主人はこれからも今のドッグフードしか俺に食わせないつもりだろうな。犬の食べるものなんて、食えれば何でもいい、木の葉でもいいとすら思ってやがるんだろう。だからどうしようもない。俺はもう何も言えんよ。

友達に聞いたら、かりかりのドッグフードなんて食べないそうだ。うらやましいもんだ。毎日、生肉の入ったシチューみたいなものを食べるなんて言う奴もいた。柴犬のタケシって奴なんだけど、あいつ、ぶくぶく太っててさ。そりゃ毎日いいもん食ってりゃ、あんだけ太るわなあ。俺なんて、がりがりだぜ。ちょっと腹を触れば、あばらの感触が分かるくらいだからな。タケシは俺を見て、痩せていていいね、なんて言いやがる。嫌味だよな。俺から見りゃ、太っていていいね、だよ。これは嫌味じゃない。純粋な羨望だ。俺のところじゃ、生肉シチューなんて考えらんないんだからね。

遊ぶ時にも主人はひどい。いや、あれは断じて遊びなんかじゃないな。虐待だ。俺は骨の形をしたプラスチックをかじるのが好きなんだけど、主人は俺がかじってる最中にそれを無理矢理取り上げやがる。ほんと楽しくかじってる最中にだよ。人間で言えば、漫画を集中して楽しく読んでいる時にいきなり横取るのと同じだ。最悪だろ?あの主人は、俺がどんなにあの骨が好きかどうか分かってるはずだ。分かってて、取り上げやがる。嫌なもんだよ。取り上げてどうするのかって言うと、遠くへぶん投げるんだ。「取ってこい」なんて言いながらね。俺はまだかじっていたいから仕方なく取りに行くんだけど、そもそも主人が投げなけりゃ取りに行く必要なんてないんだから、腹が立つね。

投げた時はまだいい。もっとひどいのは、隠すことだ。骨を取り上げて、俺の取りに行けない場所へ隠すんだ。タンスの裏とか、テレビの上とかね。陰湿だよ。主人は隠したつもりなんだろうけど、犬の嗅覚を舐めてもらっちゃ困るぜ。臭いがぷんぷんするから、どこに隠したかなんてすぐに分かる。だけど、俺じゃ取れない場所なんだよ。狭い場所だったり、ジャンプしても届かない場所だったり。それでいて「早く取ってこい」なんて言いやがる。取りに行けるわけがないんだよ。こうなるともう腹が立つどころじゃないね。主人の顔なんて見たくもなくなる。だから俺は拗ねて寝床へ帰ってメシの時間まで寝てやるんだ。メシっていっても、あのかりかりのドッグフードだけどな。俺は何のために生きてるのか分からなくなるよ。

主人は、俺のこと嫌いなのかね。いや、別に嫌いでもいいんだぜ。俺は逃げたくなったらいつでも逃げてやるんだからな。もう今すぐにでも逃げてやりたいくらいだ。逃げるところだってもう決めてるんだから。俺はね、お前のところに逃げたい。いつも優しく俺を撫でてくれるお前のところに逃げたいんだ。お前なら、きっと俺をよく世話してくれるよな。お前は俺に赤信号なんか渡らせないだろう?かりかりのドッグフードなんか食わせないだろう?骨を取り上げて隠さないだろう?だからその時が来たら頼む。頼むよ。俺を可愛がってくれよ。


「わあ、ショージ君、さっきからずっとわんわん鳴きながら手を舐めてくるよお」

「おい、ショージ、なに幼稚園児に発情しているんだ。もう去勢したはずだろう。さ、帰るぞ」

「ばいばい、ショージ君」

「わんわん」

茨城症候群

  • 2008年1月29日 01:23
  • UFO

「いいかい。国道をここからまっすぐ行って、山へ続く小道を上ってちょっと行くと、もう今は廃墟になった遊園地が見えてくる。敷地は管理区域で普通には入れないんだけど、高い観覧車がまだ建っていて、柵の向こうに見えるはずだよ。遊園地は確か十年前くらいに廃業したんだっけな。まああんな場所に遊園地なんて建てたのが悪いんだよ。あそこはね、そもそもの土地が悪いんだ」

「土地?」

「まあここら辺の人じゃない限り知らなくて当たり前か。明治時代まで、お寺があったんだよ。あの周辺一帯は、全てお寺の土地だったんだ。廃仏毀釈を知ってる?明治の悪名高い、廃仏毀釈。祭政一致の下、仏教を否定して神道にまとめよう、っていう風潮ね。民間にもその風潮は広まって、むしろ拡大解釈されて、寺院がまるで悪の権化であるかのように捉えられることもあった。運動の拡大とともに、お寺の建物が取り壊されて、土地も売りに出されたんだよ」

「寺院の土地だったんですか」

「そう。お坊さんたちの落胆は相当なものだったろうね。何百年も守り続けてきたお寺を、明治政府になった途端半ば強制的に廃寺にされたんだもの。仏教を広める対象の民衆にまで迫害されたんだから。一部は激しく抵抗したらしいんだけど、時代の大きな流れには逆らえず、結局は土地を丸ごと富豪一族に売られてしまったんだ。後世に遊園地を建てたのも、同じ一族の子孫ってわけさ」

「その富豪一族というのが、山本家……」

「うん、常陸山本家といったら、ここらじゃすごい大富豪で有名だったんだ。華族公爵家の分家で、明治に入ってからは色々な事業を始めた富豪だよ。坊さんたちから手に入れた土地も、工場だか何だかの事業に使う計画があったそうなんだけど、結局昭和の戦争の終わり近くまで何にも使われなかった。もったいないね。宝の持ち腐れってやつだよ。もっとも、山本家は他にいくつも広大な土地を持っていたし、事業も複数展開してたいそう儲けていたそうだから、土地の一つを放置していても何の問題はなかったろうけどね」

「山本家はどうしてその土地を活用しなかったのでしょうか」

「常陸山本一族の人間でもない限り、真相は知りようがないね。でも、色々な噂ならあるよ。まあトンデモ話の一種だろうけど。山本家は宇宙人と繋がりがあって、あの土地を宇宙人に貸していたとかね」

「宇宙人?」

「まさか、僕はそんな話を信じちゃいないよ。あくまでも噂だからね。でも、この近辺じゃ戦前から、飛行機でも鳥でもない、空を飛ぶ謎の物体、今で言うUFOを見たっていう人が多いんだ。山の近くに降りるのを見たっていう証言もたくさんある。でもねえ、ツチノコでさえ見つかっていないって言うのに、UFOなんてねえ」

「UFO……。それで、山本家の人々は今は何をしているんですか?」

「山本一族は、今はここら辺には住んでいないよ。あの遊園地が一族の最後の事業。明治の富豪だった山本家は、もう没落しちゃったんだ。昭和のバブルもはじけたし、相続税も払うのに苦労したくらいだそうだしね。遊園地が廃業になってから、揃って東北の方へ移ったって聞いたね」

「東北で何をやっているかはご存知ですか」

「あいにく僕は郷土の研究家であって、常陸山本家の研究家じゃないからねえ。そこまでは知らないよ。ああ、でも一つ言っておくよ。……あまり山本家に深く関わらない方がいい」

「……それは、どうしてでしょうか」

「それは言えない。ただ言えるのは、関わった人間はみんなおかしくなってしまうということだ。心も体も。茨城症候群、って僕たちは呼んでいるんだけどね」

「茨城症候群」

「もう十五年前だったかな。強い不定愁訴や強迫観念に苦しめられる人々がこの近辺で現れ始めたんだ。でも彼らに共通して見られるような症状はなかった。共通点は、ただ茨城の人間であるということだけ。それで患者たちを診た大学のドクターが茨城症候群と名付けられたんだよ。当時は新しい公害かと地元で騒がれたこともあったんだけど、公衆衛生学の権威が調査を行った結果、それは否定された。原因は不明のまま、茨城症候群という名前だけが残ったんだ。ただもう一つ、決して公にはされない裏の共通点があったのさ。常陸山本一族の人間と、何らかの深い関わりがあったということ」

「関わっただけで気がおかしくなるなんて、通常では考えられませんね」

「医学的にはそうさ。でも普通の人々の感覚ではそうじゃない。健康番組で納豆がいいなんて聞いたら納豆を買いに走る人たちだからね。常陸山本家と関わると祟られる、なんて噂が一旦広がってしまうともう止められない。それが何の根拠もなくてもだ。信じる人は信じてしまうんだよ。結局山本家が運営していた遊園地も、その噂のお陰で根も葉もない新しい噂は立てられるわ、来園者数は激減するわで、閉園を余儀なくされたんだ」

「まるで廃仏毀釈と同じですね」

「そう。普通の人々は普通でいるようで、普通じゃないんだ」

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