茨城症候群

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親父

  • 2007年10月 1日 23:54

lone

親父、俺を捨てたんですか。どこに行けば親父に会えるんですか。もう十何年も親父を捜し続けていますが、手掛かりすら掴めません。親父、どこにいるんですか。

親父は突然いなくなりましたね。まだ一人で食べるための金すら稼げない俺を置いて。まるで神隠しにでも遭ったかのように、忽然といなくなりました。神隠しなんて実際あるわけがありませんから、一人でどこかへ行ったんでしょう。俺のことなんて考えもせずに、気楽なもんです。

あの日家へ帰った時に襲われた不安をまとった違和感は、生涯忘れ得ぬことでしょう。忘れるどころか、今も感じ続けているんですから。家へ帰り戸を開けると、誰もいないんです。休日なら居間で寝ころんでテレビを見ているはずの親父が、いないんです。

親父、親父。何度も呼びました。家の中に響き渡るほどの大声で、親父、親父、と。家にはいないと解ったら、今度は家の周りで叫んで呼びました。親父、親父。ですが結局何の応えもありません。俺が叫んでいる最中に、新聞配達のジジイにうるさいと怒鳴られるだけでした。

俺は何も、新聞配達のジジイに怒鳴られたくて親父を呼んでいたわけじゃないんです。親父を、親父の存在を確かめたかっただけなんです。親父が俺の前から消えてしまったという可能性を、どうしても打ち消したかっただけなんです。けれども、その可能性が事実へと変わっていく空気を、俺はひんやりと感じてしまいました。

どうせ明日には帰ってくる。明日じゃなければ明後日だ。明後日じゃなければ明々後日だ。明々後日じゃなければ、と繰り返しているうちに、一年が経っていました。一年もの間待ち続けても、親父は帰ってこなかったんです。その間、もう俺は自分で食べていけるようになりました。

待つだけでは親父には会えない。そう思い、俺は親父を捜し始めたのです。仕事の合間を縫って、親父の行きそうな場所を調べ、休日にはその場所へ出向き、人々に聞き込みをする。初めこそ面倒なことでしたが、何年も続けていくうちにそれが当然の日常になりました。

あんたの親父なんて知るものか、これがほとんどの人々の反応です。当然のことでしょう。他人にとって、他人の親父のことなんてどうでもいいんです。他人に知ったこっちゃないと怒鳴られたところで、こっちが怒鳴り返すことは出来ないんです。いくら俺が親父を見つけ出したいと思っても、赤の他人にこちらの手伝いを強いることは出来ないんです。そこには何の理不尽もありません。

年月を経て、俺は自分の家庭を持ちました。親父がいなくても、俺は生きていけるんです。でも不思議なことに、親父を見つけ出したい気持ちは高まるばかりなんです。

ああ、親父に会いたい。会ってぶん殴ってやりたい。抱き締めてやりたい。親父、どこにいるんですか。親父。親父。

黒猫

  • 2007年10月 7日 23:31
  • UFO

どこまでも続くかのような暗く冷たい下水道を抜け、マンホールから顔を出すと、小さな黒猫が座ってこちらを見ていました。まるで、私を待ち構えていたかのように。

黒猫は、不機嫌そうにその髭を前足で撫でながら声を掛けてきます。

「おい、小娘」

黒猫とお話するなんて滅多にないことなので、私はまごついて答えに窮しました。するとなおも黒猫は話し掛けてきます。

「おい」

「はい、なんでしょう」

小さな黒猫が出す脅すような大きな声に、今度は応えずにはいられませんでした。応えた私を睨むようにしながら、黒猫はゆっくりとこちらへ近寄ってきます。

私は気が小さいものですから、この黒猫に引っ掻かれるものとばかり思いこんでびくびくしていました。マンホールから顔だけ出して怯えている様子は、ずいぶんと間抜けた格好でしょうが、その時はそのようなことを気にしている余裕はなかったのです。

そうして黒猫は、私の不安な顔にげんこつ一つ分までの場所に近付くと、突然両前足を上げて叫びました。

「俺は、ヤマモト、黒猫のヤマモトだ」

捨て猫

  • 2007年10月11日 22:11
  • UFO

下宿先に遊びに来ていた妹が、猫を拾ってきた。薄汚い小さな猫。妹は勝手に猫を拾っておきながら、俺の部屋で飼えだなんて言う。身勝手極まりない、非道い妹だ。俺には猫を飼う余裕なんて、資金的にも時間的にも精神的にもなかったものだから、もちろん元に戻して来るように言った。すると妹は自分の非道なことを棚に上げて、俺の責任がどうのこうのと言って取り合わない。拾ってきた時点で責任が生まれてしまうのだよ、と言っても妹はその責任すら俺になすり付けようとしている。人間の言葉が解ることのない猫は、訳も知らずににゃあにゃあと鳴いていた。

妹は議論をそっちのけにして、どこから引っこ抜いてきたのか猫じゃらしで猫と遊んでいる。そして猫には「ヤマモトさん」などと名付けていた。およそ猫の名前らしくない名前。妹によると、猫の方が自分をヤマモトだと言ったのだという。もはや俺の理解出来る範疇を超えている。妹は、頭の中にお花畑が咲いているような人間たちの仲間入りをしてしまったのだろうか。

妹はなおも続けて、この猫、ヤマモトさんの出自を説明する。まずヤマモトさんは、元々は人間だったという。そこにある時、空間に歪みが生じて一家離散、ヤマモトさんは猫になってしまった。家族はどうなったか知らない。このヤマモトさんが猫となったのなら、他の家族は犬や鳥にでもなったのかも知れない、ということらしい。

まあその話が事実だとしたら、可哀想な猫だ。しかし如何にしろこの頭がお花畑の妹の言うことである。まともに信じられるはずがない。いずれにしても、捨てられ拾われたこの猫は可哀想な運命なのだろう。

捨て猫2

  • 2007年10月15日 20:22
  • UFO

捨て猫

妹の言うように、この野良猫がヤマモトという人間だったということを信じようが信じまいが、俺の部屋の居候として飼うことが無理なことは明白だった。だが、再び捨てるわけにもいかない。もうこの部屋へ連れられて来た時点で、この猫の行く先は決まっていたのだろう。

保健所。市の保健所に収容してもらうしかない。収容された後、この猫がどうなるかなんて分からない。俺は分からない。もちろん保健所では収容された後にどのように扱われるかは知っている。収容されているうちに、新しい飼い主に選ばれることがあるということも知っている。けれどもそれは、ほんの一部の幸運な動物だけなのだ。すなわち、その他大部分の動物たちは、どうなるか。それは誰もが知っている。知ってはいても、俺はこの目の前に猫がどうなるかなんて、分かりたくない。

愚かな妹はまだ猫じゃらしで猫と戯れていた。こちらの気持ちも考えもせずに、まあよく楽しげに笑っていられるものだ。きっと妹の頭の中では、この猫はもう俺の部屋の住人になっているのだろう。ヤマモトさん、ヤマモトさんと呼び掛ける妹の幸せな笑顔が、なんだかとても憎らしく思えてくるほどだった。

妹が帰り支度を始めて、俺はこの猫を一晩しか預かれないことを言った。妹は訳が分からないと言いたげな顔をしていたが、沈黙のうちにこちらの言いたいことを理解した様子で、それはダメだと言い寄ってきた。ヤマモトさんは人間なの、いつか人間に戻れるから、と相変わらず頭がお花畑なことを言い続けている。しまいに俺は怒った。

無言のまま妹は帰って行った。部屋にはこの可哀想な猫を置いて。兄の俺には愛想を尽かしたようだ。信じようのない話をし続けた妹は、どこかおかしくなってしまっていたのだろうか。俺は妹が心配になった。

さて、この猫、今晩は段ボールの中にでも入れて、明日、連れて行こう。

真っ赤な目

  • 2007年10月23日 21:05

薬剤師として勤めている薬局で、目の真っ赤な女の子に出会った。

その子は目が充血したために、眼科に掛かったのだと僕は思った。ニフラン点眼液あたりが処方されているのだろう。しかしその子が持ってきた処方せんを見てみると、「PL顆粒 3包 毎食後 5日分」。どうやら結膜炎でも眼瞼炎でもなく、風邪を引いたらしい。

「風邪を引いたの?」と問うてみると、女の子は小さくうなずきながら笑っていた。

それにしても目が赤い。可愛らしい丸い目なのに、まるで血の色のような。いや充血していればそれは血の色になるわけだけど、これは赤すぎる。尋常じゃない。僕が内科の医師だったら、目の異常を疑ってこの女の子を迷わず眼科へ回すところだろう。

調剤、監査の間、女の子はその目を痛がったり痒がったりすることもなく、ただ時々こふこふと咳をする以外はじっとして待っていた。

「お薬できましたよ」

そう呼ぶと、女の子は飛ぶようにこちらへ来た。風邪を引いてるんだから、そんなに元気そうにしなくてもいいのに。

一通りの決まった服薬指導を終えると、僕は問うた。「…君の目、真っ赤だけど、大丈夫?」

すると女の子の目付きが豹変した。先ほどまで可愛らしい丸っこい目だったものが、鋭い嫌悪の眼差しに変わったのだ。もちろん、真っ赤なことには変わりない。その真っ赤な目で、僕は突き刺された。

女の子は目についてのこちらの問いかけには応えることもなく、ぴったりのお金を置いておくとずかずかと薬局を出て行った。僕は、気にしてはいけないことを気にし、言ってはいけないことを言ってしまったのだろうか。

いじめ同盟

  • 2007年10月29日 21:41

ネットでも、いじめなんてあるんですね。びっくりしました。

というのも、私自身がネットでいじめられているんです。まさかネットでいじめられるなんて夢にも思っていませんでしたから、ただただびっくりするばかりです。

もともと、私はネット上のある同盟に入っていました。あるものを好きな人たちで参加して嗜好を表明し合う何々同盟って、よくあるじゃないですか。私はテニスの王子様の樺地が好きでしたから、そのものずばり樺地同盟というものに入っていたんです。もう一つの樺G同盟ではありません。最初は気軽な気持ちで、私のウェブサイトの片隅にバナーを貼っていました。私は樺地が好きなんだ。そういう軽い気持ちです。

そのうち、樺地熱が入りすぎて樺地が好きで好きで仕方なくなってきたんです。ああ、もっとこの想いをみんなに伝えたい。そう思って、樺地同盟の他の参加者のサイトも覗いてみたんです。そしたら、すごい。私なんかより、もっともっと樺地が好きな人たちが、そこら中にいました。

私は興奮してきました。樺地が好きだという想いを、この人たちとなら共有できる。なんて素敵なことだろう!私は樺地同盟の他の参加者に、メールを次々と送ってみたんです。

こんにちは!

****さんのすてきなサイトを見て、同じ樺地好きとしてもう居ても立ってもいられなくなりメールを送ってしまいましたvvv

私本当に樺地が好きなんです。いろいろ樺地のイラストやSSを作ったりしていましたが、どうも一人だと好きという気持ちの表現を満たせないみたいで、他の参加者さんのお力を借りたいのです。

今度、絵チャしてみませんか?是非、樺地について熱く語りたいですvv

お返事、お待ちしてます!

そして、私は待ちました。でも、誰も返事をくれないのです。誰一人として、私にメールを返してくれないのです。

正直なところ、私は悲しくなりました。樺地が好きな気持ちが、メールでは上手く伝えられなかったから、誰も興味を持ってくれないんだ。私は私の表現力を呪いました。

しかし、一通だけ返信がありました。絵の上手い、Kさんという方からでした。

***@***.***.ne.jpさんへ。****と申します。

突然意味不明のメールを寄越すのは、非常識じゃありませんか?ましてや、メールの送り主の自己紹介も書かれていないのに。

あなたは、樺地より何より、まずネットマナーから学び直すべきだと思います。ネット上でのマナーがなっていない方とは、私はお付き合いするつもりはありません。他の方もきっとそうでしょうね。

では。

返信されてきたメールは、上のようなものでした。つまり、私のメールの送り方がおかしいという指摘だったのです。私はメールを見て、頭の中が芯から真っ白に染まっていきました。樺地が好きという気持ちもすっと失せるような、その真っ白さの後に、恥ずかしい赤黒い気持ちが押し寄せてきました。

私は申し訳ない気持ちになり、樺地同盟のサイトの掲示板に、謝罪の気持ちを表した文章を投稿しました。

***と申します。この度は、申し訳ありませんでした。

ネットマナーがなっていないまま、樺地同盟の参加者の方々に、気を悪くさせるようなメールを送りつけてしまいました。

今後、ネットマナーを身に付けていきたいと思います。そして、気持ちよく樺地について語り合えるようになりたいです。

申し訳ありませんでした。

私はもうそれでいいと思ったんです。もうそれで、禊ぎは済んだと思っていたんです。でも、違いました。一度弱みというか異端な部分と見つけると、ハイエナのように突くことを止めない人がいるんです。どこでもそうなんです。

私は同じ掲示板で、まず罵られました。謝って済む問題じゃない、同盟を辞めろといった趣旨の罵倒でした。それについてまたしゅんとした投稿をすると、今度は別の人から罵倒されたのです。ふざけるな、お前は過ちを犯して居座るつもりか、などと。一度汚れたものとレッテルが貼られると、それを拭うのは難しいのです。しまいには、一人だけではなく十何人もの参加者から罵られることになりました。

こうなるともう、いじめです。匿名メールで、マナーが悪いなどと言うメールが何通も送りつけられましたし、自サイトの掲示板にも、訳の分からない文面が載せられたりもしました。私はあれほど好きだった樺地同盟から、文字通り泣く泣く自サイトへのリンクを削除しました。サイトからもバナーを消し、樺地関連のコンテンツを削除すらしたのです。

これでもう逃れられると思いましたが、だめでした。自サイトは、2chのネットウォッチ板に「下手絵サイト」「電波な腐女子サイト」として晒されてしまい、匿名の悪意がどっと押し寄せてきたんです。もうこうなると、サイトを削除する以外逃れられなくなりました。

結局、サイトは白紙になりました。「準備中です。」の一文だけトップページへ載せて、かつての賑やかな樺地好きのサイトではなくなりました。

ネットいじめとは、恐ろしいものです。

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