茨城症候群
yamamoto
- 2007年6月12日 23:58
- UFO
この前学校から帰る途中、わたしはUFOを見ました。何の気もなくふと振り返って顔を上げると、夕方の薄紫の空に、上下左右自在にあやしく動き回る光が見えたんです。UFOです。びっくりしました。
たまに人工衛星が光って見えると聞いたこともありますが、あの動きは人工衛星なんかじゃないと思います。あれは絶対にUFOなんです。わたしは初めてUFOを見た興奮で、頭も体も熱くなりました。UFOって、やっぱり本当にあるんだ。感動にも似た興奮でした。
わたしは一緒に帰っていた山本さんに「UFOだよ!」と急いで知らせてあげましたが、山本さんが見たときにはもうUFOはどこかへ行ってしまったようで、あの光はもう見えなくなっていました。とてもがっかりしました。するとUFOを見られなかった山本さんは、「幻覚じゃないの」とわたしを馬鹿にして言ったんです。幻覚じゃないのに、本当にUFOを見たのに、わたしは山本さんに幻滅しました。
よく考えると、山本さんにはいつもそういう所があります。自分の信じられないことには何の価値もないと思っているらしく、山本さんが信じられないことをする人や言う人を自分より下に見て小馬鹿にするんです。山本さんは大切な友達ですが、そういう所が嫌いです。
次の日、学校のクラスの女子の間では、わたしがUFOを見たという話題で持ちきりでした。教室の中で耳をよく澄ますと、UFOUFOという単語がぼそぼそと聞こえてきたので間違いはありません。山本さんはおしゃべりだったので、きっと山本さんがクラス中にきのうのわたしのことをぺちゃくちゃとしゃべったんだと思います。
わたしが話題になるのは別にいいんです。でも、その話題はわたしのいない所でされていました。わたしがその話の輪に加わろうとすると、特に無視されることはないんですが、明らかにわたしについてではない別の話に切り替わるんです。わたしが近づいた前後の会話の繋がりが強引でめちゃくちゃだったので、誰にでも分かることです。わたしはわたしについての話題の中で、けなされていたんだと思います。UFOを見たとかわけの分からないことを言ってる、あの子は頭がおかしい。そう言われていたんだと思います。
朝の学級会の間、わたしの頭の中は悔しさと恥ずかしさと心苦しさで一杯でした。肩を狭めてうつむいて座っていても、後ろから冷たく鈍い視線を感じたんです。あの時の教室ほど居づらい空間はありませんでした。静まりかえる教室の中で、クラスのみんなは心の中でわたしのことをUFOUFOと馬鹿にしていたに違いありません。どうしてこんな状況になってしまったのか。わたしは山本さんをうらみました。憎みました。横目を山本さんの方へやると、楽しそうに、本当に楽しそうに微笑んでいました。わたしは先生のくだらないシャレにも笑える気持ちではありませんでしたが、山本さんは笑っていました。数メートルも離れていないわたしの気持ちなんか何にも知らないで、明るく笑っていたんです。わたしは唇をかみしめ、手を握り、わなわなと震えました。
『山本さんがいなければ…、山本さんなんか、いなくなっちゃえばいいんだ…!』
次の日学校へ登校すると、山本さんの姿がありません。欠席かと思いましたが、そうは休まない元気で丈夫な子です。さすがにきのうは山本さんにいやなことをされて腹が立った日でしたが、毎年皆勤賞をもらっている山本さんが欠席すると心配になります。わたしの大切な友達ですから、何があったのかと朝の学級会で先生に聞きました。すると返ってきた言葉は、予想もできなかった言葉でした。
「山本さん?山本さんって誰?」
山本さんは、いなくなってしまったのです。