茨城症候群

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私と彼のこと

  • 2007年6月 2日 23:36

私の彼は、とてもかっこいいんです。世間を騒がすもこみちさんや妻夫木くんも比べものにならないでしょう。日本一のホストクラブというものがもし存在したところで、そこで一番のホストでさえも私の彼には敵うことはあり得ません。日本一どころか世界一のイケメンであっても、私の彼の足下にも及ばないのです。ひょっとすると、いやきっとそうでしょう、宇宙で一番かっこいいのは、私の彼なのです。

何も外見だけがかっこいいのではありません。性格も、本当に素敵なんです。私が彼の一番好きなところは、物静かで、何事にも動じない冷静な心を持っていることです。何が起ころうと、彼はいつもの姿勢で、いつもの優しい眼差しで、私を、私だけをまっすぐ見つめてくれるのです。私は地震が大嫌いなのですが、揺れの大きな地震が起きた時には私はいつも彼に抱き付きます。彼と触れ合っていると、私は永遠の安心を得たかのような気分になれるのです。怖がる私を、何も言わずにそっと受け入れてくれる、そんな存在は、彼以外にどこを探したっていないでしょう。

私と彼との出会いは、私が百貨店のテナントのブランド服を売る店舗の販売員をしていた頃のことです。私が終業後の掃除をしていると、彼がひとり店舗の脇の通路に立ちすくんでいるのが見えました。私の身体中を稲妻が駆けめぐったのは、その時でした。私は、彼に一目惚れをしてしまったのです。全身の血管が波打つのが分かるほど、私の身体は彼への激しい想いに乗っ取られたのです。

私は奥手な方でしたから、彼に声を掛けることができずにただ彼を見ているだけでその日が終わってしまいました。そして家へ帰り、もう彼を見かけることはないんだ、そして一生今日という日を悔やんで生き続けるんだ、と思いながら泣いたのです。たとえ数時間であっても時間が戻せるのなら、悪魔や死神に魂を売り渡してでも時間を戻したいとさえ思いましたが、それをどんなに強く願っても私が時間という枠の中で生かされている以上、時間を超えることは不可能なことでした。私には、ただ私の消極性を恨んで泣き散らす外にすることができませんでした。

翌日、目を腫らした私が気を落としながら出勤すると、その腫れた目が勢いよく飛び出すかと感じたほど驚くべき光景を目にしました。彼が再び、同じ通路に立っていたのです。今までにない、強い運命を感じた瞬間でした。店舗の営業中も、通路の彼が気になって仕方がありませんでしたが、その日の終業後に決心して彼に声を掛けたのです。人生の一大決心でした。彼は無口でしたが、その優しげな眼差しは明らかに私の想いを受け入れてくれていました。その日から、私と彼との付き合いは始まったのです。

彼はその透き通るように白い肌を持つ見た目に違わずインドア派でしたが、私はとにかく彼と一緒の空間にいられるだけで幸せでした。付き合って一ヶ月ほどは勤務先の店舗でしか会うことができませんでしたが、彼をアパートの私の部屋に招くと彼は非常に満足した様子で、帰りたがる素振りも見せなかったために、私は彼を部屋に泊めてあげました。しかし次の日も、その次の日も、彼は帰ろうとしませんでした。私も特に彼が部屋にいて困ることはなく、むしろ彼と暮らせることは喜ばしいことであったので、結局そのまま同棲生活が始まり、今日に至っています。

勤務先では、彼が突然いなくなったという話がされていましたが、やがてすぐに彼の代わりが以前の彼と同じように通路に立つようになりました。新しい代わりはさっぱりしない顔で、オーラもありません。私はやはり、彼ではないといけないようです。

とにかくかっこいい私の彼ですが、私以外の人たちにはそのかっこよさが何と全く解らないようなのです。とても嘆かわしく思います。きっとそういう人たちは、人生の九割九分九厘八毛を損しているのです。可哀想だとさえ思えます。けれどその反面、私は幸運だと言えるのでしょう。あんなにかっこいい彼を、二十四時間年がら年中私だけのものにできるのですから。

私の彼を私の当時の一番の親友に紹介した時、その子は何が何だか解らないという目付きで私を見ました。そして何を思ったのか、大笑いを始めました。私と私の彼を交互に見ながら、甲高い声を立てて笑ったのです。本当に失礼な話です。本人たちを目の前にして嘲るように笑うなんて、非常識にもほどがあります。その態度があまりにもふざけすぎていましたから、それ以来私はその子と一切連絡をすることもなくなり、結局縁を切りました。

今から考えると、あの子は病気だったに違いありません。高校でも授業中は寝てばかりいましたから、その影響で笑い病にでもなってしまったのでしょう。まさに自業自得です。きっと今頃は、暗い部屋の隅っこ、あるいはジメジメした押し入れの中でかも知れませんが、一人で肩を震わせて泣きながら自分の運命に大笑いしているのだと思います。いい気味です。

私を産み育てた私の親でさえも、驚いたことに彼のかっこよさを理解できない可哀想な人たちだったのです。私のアパートの部屋に両親が訪ねてきた時、彼と私はすでに同棲していましたから、その時に私は彼を両親に初めて紹介しました。ところが両親の反応は、私が予想もし得ないほど全く情けないものでした。「何を考えているんだ」「あなた気でも違えたの」「お前をこんなアホに育てた覚えはない」「あなた人間じゃないわ」と、本当に私の倍以上も人として生きてきたのか疑われるような酷い言葉を、私たちにぐさぐさと投げ飛ばしたのです。

私はこれまでにない、非常に大きな大きなショックを受けました。私が今日の自立した生活を送れるに至るまで大事に育ててきてくれた、私にとって一番の理解者だと思っていた両親が、私と彼の交際を認めないどころか人格を否定する言葉を私たちに浴びせたのですから。その時点で、私の両親への堅く揺るぎなかったはずの強い信頼が、いとも簡単に後に何も残らないほどぼろぼろに崩れました。現在では私と両親とは絶縁状態になってしまいました。

もしかすると、こんなことは想像したくもないのですが、私と彼とは永遠に結ばれることのない仲なのかも知れません。あるいは、私と彼との間を意地悪な運命の神様が悪戯のつもりで妨げているのかも知れません。理不尽な出来事を乗り越えてこそ、私と彼とは強く強く結ばれる、そう、これはきっと神様が私たちに課した試練なのでしょう。

たとえ大きな困難が降りかかろうと、誰も私たちの仲を裂くことはできません。私は彼を堅く信じているのです。彼は一言も喋りませんが、私の想いは彼に確かに伝わり、私を受け止めてくれているのです。いつもの姿勢で、いつもの優しい眼差しで、私だけを見つめてくれているのです。

いつもの姿勢で、いつもの優しい眼差しで…。

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