茨城症候群
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daigakusei
- 2007年6月 1日 23:58
わたしとお兄ちゃんは、六歳ほど歳が離れてます。わたしは今中学生で、お兄ちゃんは東京の大学の学生です。二浪してようやく大学に入れたんですが、お兄ちゃんはそれを自分で気にしてて、入学してから今にまで、周りが現役生ばかりで自分だけが成人してることに引け目を感じてるんです。
もちろん気にしなければ浪人してようが成人してようが学生であることに何の変わりもないと思うんですけど、お兄ちゃんは必要以上にそれを気にしてましたから、大学に通い始めてからはずっと落ち込んだ様子でした。はたから見てて、わたしはお兄ちゃんがとてもかわいそうでした。
ある日の夕方、わたしが学校から帰ると、めずらしくお兄ちゃんの部屋から楽しそうな笑い声が途切れ途切れに聞こえてきました。本当に久しぶりに聞くお兄ちゃんの笑い声でした。誰か友達ができて、その友達を部屋に連れて来てるのかなと思って、わたしは内心うれしく感じました。
やっとこれでお兄ちゃんも楽しい大学生活を送れるんだなと思うと、妹として家族として、本当に安心することができたんです。これをきっかけに、サークルに入って、バイトを始めて、車の免許も取って、そのうち彼女ができて…。想像するだけで本当にうれしくて、わたしは思わず笑顔になってしまいました。
でも、よく耳を立ててみると笑い声はお兄ちゃんのものしか聞こえてきません。そういえば玄関にもいつもと違う靴がなかったので、本当は友達なんて来てなかったんです。つまりお兄ちゃんは、他の誰と談笑してるんでもなくて、ひとりで部屋で笑ってたんです。
普段は笑いもしないお兄ちゃんです。お兄ちゃんの部屋には、テレビもラジオもパソコンもありません。本や漫画もほとんど買いません。何を見てあんなに断続的に笑ってたのか、わたしには想像もできませんでした。それなのに、お兄ちゃんは笑ってるんです。ひとりでずっと、笑ってるんです。わたしは怖くなって、耳栓代わりにiPodを大音量で聞いてベッドにもぐりました。
わたしはそのままいつの間にか寝てしまってたようで、気がつくともう夜の十時を回っていました。夕飯も食べないでこんな時間まで寝てしまってたんです。わたしはまだ大音量で音楽を流し続けてたiPodを消して、遅い夕飯を食べに部屋を出て一階へ降りようとしました。階段を降りてるときに、突然大きな声が二階から聞こえてきました。お兄ちゃんの部屋の方からです。
わたしがびっくりして立ちすくんでると、今度は庭の方でがたんばたんというすごい音がしました。わたしはとても嫌な予感がして、お兄ちゃんの部屋の前へ駆けつけてドアを開けました。すると、がらんと開いた窓と、窓から入る風で揺れるカーテンが目に入りました。わたしは理解できない気持ちでいっぱいでしたが、本当はそのときすぐに理解してしまいました。お兄ちゃんは、窓から飛び降りたんです。
その夜は家族中近所中大騒ぎになりました。救急車の赤い灯りが強すぎて、わたしのその夜の記憶は鮮明ではありません。
数週間後、お兄ちゃんは退院しました。それ以来、お兄ちゃんは別人になったかのように変わったんです。サークルに入って、バイトも始めて、車の免許も取って、そして彼女もできたんです。わたしは正直驚きました。
わたしがあの夜のことを聞くと、何も覚えてないそうです。もしも思い出したら、また以前のようになってしまうのかも知れません。
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