茨城症候群

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illusion

  • 2007年5月28日 22:50

「あなたは霊を信じますか?」

突然の大きな声が、良く晴れた初夏の昼間の午後の心地よいひとときを勢い良く突き破った。僕はその時、いつものように部屋で"午後は○○おもいッきりテレビ"を点けながら昼寝をしていたが、そんな大声が窓の外から聞こえたものだから、驚いて飛び起き、窓から外の様子を窺った。

僕の部屋はアパートの三階にあって、窓の外にはベランダも何もない。僕が窓から顔を出しながら上下左右を見渡すと、そこにはいつもと変わらない昼間の午後が広がっている。大声を出すような人間も何もいない。窓から外へ出れば、十メートルほど下の地面に落ちるしかないのだから、一体あの声がどこから発せられたのかは明らかにならなかった。

まあ幻聴でも聞いてしまったのかも知れない。いや幻聴なんかじゃない。幻聴が聞こえてしまうほど、僕はまだおかしくなっちゃいないのだ。どうせ寝ぼけてみのもんたの声を窓からの声と聞き違えたのだろう。嫌なみのもんただ。僕は昼寝を続けることにした。

「あなたはー、あなたは霊を信じますか?」

何分か経って、また同じような大きな声が聞こえた。同じ声を二度も聞けば、その声の質を嫌でも覚えてしまう。中年の男性が何かの集会で抗議文を読み上げるような調子の声だ。みのもんたの声じゃない。これは明らかに、僕の知らない誰か個人の声だ。

僕は初め、その声が何を意図しているのか解らなかった。何を言っているのかなら解っている。その声は僕に、霊の存在を信じているか否かを問うている。ただ、その言葉が何故僕の部屋の窓の外から聞こえてくるのか、霊を信じていることの意味を僕に問うことに一体何の目的があるのか、解らなかった。一言で言えば、訳が解らない。当然だ。

念の為に、僕はもう一度窓から顔を出して外の様子を確かめた。やはりそこには、いつもと変わりない風景が見える。いつもと変わりない――僕に投げかけられるあの奇妙な声以外は。僕は僕の心のどこかに、焦りにも似た戸惑いが生じ、それがどんどん広がっていることを感じ始めた。この出来事が、いずれ重大な結果を招くことになるのかも知れない。そうなのであれば、あの声は死神たる悪霊の声だ。悪霊の声など聞かずに済むものなら聞きたくもない。しかし、二度あることは三度ある。

「あなたはッ、あなたは霊を信じているんですか?」

その声はますます荒ぶりが激しくなり、上ずった調子になっている。何を慌てているのかは知らないが、僕にはそれが却って不気味に思えて仕方がなかった。もしもここで僕が何か相手にとって都合の悪い行動を起こした時、何をされるか分かったもんじゃない。何せ相手は死神なのだから。こちらの命を奪うことなど、死神にとっては何の苦労も必要ないのだ。

「霊を信じているんですか?いないんですか?」

反応してはいけない。反応すれば、僕の命はない。

「あなたは信じますか!?霊というものを信じますかッ!?」

例えうるさくとも、絶対に、反応してはいけない。反応すれば、死神の思う壺だ。死神は、僕が罠にはまるその瞬間を狙っている。これは挑発に過ぎない。挑発に過ぎないんだ。挑発には乗ってはいけない。

「一体あなたはどうなんですか!!霊を信じるんですかッ!!?信じないんですかッ!!?」

うるさいうるさいうるさい。僕はもうそれまでの考えを改めることにした。この声は不気味なんて大層なものじゃない、ただうるさい、しつこい、迷惑なだけじゃないか。何が悪霊だ。何が死神だ。ああ、くだらない。これが、僕の答えだ。

危うく僕はもうすぐで本当に頭がおかしくなるところだった。見えないものを見てはいけない、聞こえないものを聞いてはいけないのだ。信じない者こそ救われる。

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